参考文献
- 週刊東洋経済、2022.3.26
- ⽇本経済新聞、2022.5.24
- ⽇本経済新聞、2022.2.14
- ⽇本経済新聞、2020.12.8
- ⽇本経済新聞、2021.8.8
- ⽇本経済新聞、2022.2.15
参考資料:(下記文字列クリック)
最近よく「⽇本の鉄鋼は⽣き残れるか」、「⽇本の鉄が⽣き残る道」などという⾔葉が⾶び交う。
よく知られているように、鉄は⾼炉において鉄鉱⽯(Fe2O3 など)をコークス(C)により還元して造られる。
この⽅法では原理的に⼤量の CO2 排出は避けられない。これに対して脱炭素の切り札と考えられている⽅法が「⽔素還元法」である。ここではコークスの代わりに⽔素(H2)を使うため排出ガスは⽔(H2O)のみである。
⼀⾒うまく解決したように思わるが、簡単ではない。最⼤の課題は⽔素による鉄鉱⽯の還元が吸熱反応であるから。つまりこの反応を継続して⾏うには外部からの 1500℃以上の⾼温加熱が必要であること。
次の問題が膨⼤な⽔素の調達。⽇本の年間粗鋼⽣産約 1 億トンのうち鉄鉱⽯から造られるのは 7500 万トン。すべてを⽔素で還元するには約 700 万トン必要といわれる。2017 年時点で⽇本でのエネルギーとして流通している⽔素は年間 200 トンといわれる。
次の問題が⽔素の価格。現⾏の⽔素価格の少なくとも1/10 に下げなければコスト競争⼒で⽯炭に太⼑打ちできない。これは2050 年の政府⽬標のさらに半分の⽬標といわれる。
さらに⽔素還元には既存の⾼炉が使えないため、⽔素還元⽤の新しい⽣産設備が必要になる。これまでの⾼炉への投資は損失になるうえ、新しい炉への投資が膨⼤になる。
2050 年までにすべての⾼炉を⽔素還元に置き換えることは不可能で、さまざまな技術を組み合わせて CO2 排出を抑えていくとになるとみている。
ちなみに既存の⾼炉を 1 基⽔素⽤に転換するには数兆円が必要といわれている。それでも⽇本鉄鋼業界は 2030 年代の⽔素製鉄の技術確⽴を⽬指している。⽇本鉄鋼メーカー各社の⾼炉設置状況を図 88)に⽰す。
全国に散らばっているこれらの⾼炉をすべて⽔素製鉄化することは現時点では考えていない。
最近 SSAB(スウェーデンの鉄鋼メーカー)が「⽔素還元製鉄」を発表したので、その時の概略図を図 99)に⽰す。
もう⼀つの CO2 排出量削減法が鉄スクラップの利⽤拡⼤である。すでに還元プロセスを経た鉄スクラップからの製鉄は⾼炉法に⽐べて排出量は約1/4。ただし国内 1 年間で発⽣するスクラップ約 3000万トンの⼤半はすでに利⽤され、800 万トンが輸出されているといわれる。
この輸出されている鉄をすべて電炉⽅に回しても量的にとても⾜りない。
さらにこのスクラップ鉄活⽤のもう⼀つの問題は、スクラップ中に含まれる不純物の処理である。電磁鋼板や超ハイテン材など⾼級鉄製品には不純物の制約が⼤きく、現状では製造できないといわれる。
なお排出される CO2 は CCUS(CO2 を回収し利⽤・貯蔵する技術)で相殺することも必要になる。ただし⽇本では貯蔵・利⽤はコストのハ―ドルが⾼く解決出来そうにないといわれる。
脱炭素といえばまず⽔素の活⽤だ。その製造法を図 10 に⽰す。
現在世界に流通している 99%は「グレー⽔素」といわれる。天然ガスや⽯炭などから造られるが、過程でCO2 を⼤気中に放出するため、環境への負荷が⼤きい。
そこで脱炭素時代に注⽬視されているのがまず「ブルー⽔素」だ。天然ガスや⽯炭などを燃焼させて⽔素を取り出し、CO2は地中などに貯蔵するもの。しかし CO2 を完全に地中に閉じ込められるわけではない。
もう⼀つが太陽光や⾵⼒など再⽣可能エネルギー由来の電気を使い、⽔を電気分解してつくるのが「グリーン⽔素」だ。CO2 は出さないため温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる「カーボンニュートラル」に向けて最も有効とされる。しかし問題はグリーン⽔素のコストだ。
現時点で 1 キロ当たりの平均⽣産コストはブルー⽔素の 2〜4 倍。ブルーと同程度にまで下がるのは2040 年頃と英資源調査会社は推計している 10)。
⼀⽅、政府は国内での⽔素の使⽤量を 2030 年時点で 1000 万トン規模とする⽬標を⽴て調整に⼊っている。
2050 年の温暖化ガス排出実質ゼロにするためには CO2 排出のない⽔素の活⽤が不可⽋で、欧州や中国も⼒を⼊れ始めた 11)。
発電や燃料電池向けの燃料として利⽤を増やし、コストを引き下げて普及につなげる。
政府が 2017 年にまとめた⽔素基本戦略では 2030 年時点で 30 万トンの⽔素を使う⽬標を⽴てている。30 万トンは原⼦⼒発電所 1 基分に相当する 100 万キロワットの発電所をほぼ 1 年間稼働させられる量になるという。1000 万トンなら 30 基以上稼働できる。
問題は先ほど触れたように製造コストだ。1N ⽴⽅メートル当たり 100 円程度に対し、液化天然ガスの同 13 円を⼤幅に上回っている。政府は今後⾒直す⽔素基本戦略、2030 年⽬標を明確にする。
なお図 11 に国内の⽔素戦略に強く関わる主なメーカーとその取り組みを⽰す 11)。
2050 年までに温暖化ガス排出の実質ゼロを⽬指す⽇本の切り札として、アンモニアへの注⽬が集まっている。燃やしても CO2を出さず、すでにある輸送⼿段や貯蔵設備を使えるメリットも多い。
化⽯燃料に代わる「夢の燃料」を巡っては⽔素への期待が先⾏するが、⽇陰の存在だったアンモニアが「現実解」として主役の座に躍り出ようとしている。
当初は⽔素の運搬役としての使い道が期待されていたが、燃料としての扱い易さが⽬に留まった。常温常圧では気体で、−33℃で液化する。−253℃で管理する液体⽔素に⽐べ、はるかに運び易い。
コストも、経済産業省などの試算ではアンモニアだけの「専焼」の発電コストはこれまで 1KWh 23.5 円で同 97.3 円(20 年時点)の⽔素より安い。それでも「⽔素と主役を交代」と⾔い切れないのは供給の不安があるため。
アンモニアは「ハーバー・ボッシュ法」という20 世紀初めに開発された⾼温⾼圧法で今でもつくる。⽣産設備が限られ、急に流通量を増やせない12)。
新しいアンモニアの製造法が国内でも研究されている。「空気と⽔」から直接つくる⽅法に挑むのが⻄林仁昭⽒(東京⼤学教授)。
⻄林仁昭⽒の⼿法は再⽣可能エネルギーで作った電気を使い「⽔と空気」を反応させるというもの。細菌が持つ機能を再現できれば、常温常圧の空気中の「窒素ガスと⽔」からアンモニアをつくることが出来るという 13)。
これまで想いつくままに、
(Ⅰ) では「新型エネルギー時代の幕開け」で⽇本が世界に先駆けて開発した FCV を中⼼に HV、EV の登場および、官⺠⼀体となってのこの快挙を称えあった。ところが海外では FCV への評価がほとんどなく、EV および PHVが評価され完全に⼆極化した。(参照:右ボタンクリック)
(Ⅱ)では「脱炭素社会」という⾔葉の誕⽣時期を考えると共に、CO2 排出量が地球温暖化に起因しているとこを述べ、世界および⽇本の CO2 排出量の現状を述べた。(参照:右ボタンクリック)
(Ⅲ)では⾃動⾞のみではなく、電⼒、鉄なども含めた広範囲の脱炭素への取り組み状況を述べ、さらに対応策として有⼒視されている⽔素およびアンモニア化の現状についても述べた。
「脱炭素」という⾔葉がよく使われるようになってからの、マスコミ界を⼤きく賑わした時期は 3 段階あったと思われる。
まず、
ステージ1)トヨタによる FCV の開発・発表、官⺠⼀体となった⽔素社会の⼀⼤キャンペーン(ʼ14〜ʼ15)。
ステージ2)ところが海外がついて来ないので、トヨタが EV も⼿掛けると⼤きく⽅針転換し、マスコミ界も⼤変⾝(ʼ17)。
ステージ3)⽇本、世界とも EV 中⼼でほぼ落ち着いたが、トヨタは焦燥中(ʻ17 後半〜)。この間国内はほぼトヨタの動きに左右されていたが、政府の動きも鈍く、世界の EV ⼀直線の対応に対して 2、3年の遅れを取ったように思われる。
EV 化における最⼤の課題は優れた電池の開発にあると思う。この技術も元々は⽇本が先端を⾛っており、特に今話題になっている全固体電池では、トヨタ、パナソニックを中⼼に進められてきたと思うが、ここ 1、2 年ほとんど進展が⾒えない。
その間中国勢が⼤きく進出して、EV の売り上げ上位を独占してしまった。
果たして今後⽇本が EV ⽣産でトップになれるのか? TV、スマホなどと同様、また中国・韓国の後塵を拝することになるのか。原⼦⼒発電の取り込みをどうするか、⽔素製鉄などに⼤⾦をかけて進めるのか、本当に⽔素社会になるのかなど、基本をしっかり考えることが⼤切でないのか。
新しいことを始めることだけが⼤切ではない。
参考文献
参考資料:(下記文字列クリック)
完
「機材工」2023年冬季号より