表題
株式会社ベンチャー・アカデミア
フェロー 工学博士 安谷屋 武志
  1. 脱炭素社会について

  2. 本来この議論は第 1 報でするべきかも知れないが、脱炭素という⾔葉が⼀般に幅広く使われるようになったのは 2019 年頃からなので、あえて後報に持ち込んだ。

    それまでは排ガスの縮⼩化とか燃費向上 ということで取り組まれていた。低炭素化ということで⽯炭から⽯油、さらに天然ガスへと移⾏しているが、“脱”というところまでには⾄っていない。

    これをさらに進めると太陽光、⾵⼒、⽔⼒、地熱、(原⼦⼒)など脱炭素エネルギーの積極利⽤を図らなければならない。

    明確なことは地球温暖化である。よく⾒かける図1 に⽰されるように、地球の⼤気はこの 100 年で1.19℃上昇しており、国連の IPCC によると 1.5℃上昇すると 50 年に 1 度来る程度の熱波の確⽴が 8.6倍に跳ね上がるといわれる 2)これが元となり脱炭素化が叫ばれるようになった。

    図1 ⽇本の年平均気温差 1)
    図1 ⽇本の年平均気温差 1)

  3. 世界の CO2 排出量

  4. 図 2 に世界の CO2 排出量を⽰すが、中国が最⼤の排出国で全体の 3 割近くを占めており、次いで⽶国、EU と続いている。京都議定書では⽶国が参加を取りやめ、中国やインドなどの途上国は削減義務を負わなかったため、残りの参加国に不公平感を抱かせることになったといわれる 2)

    図 2 世界の CO2 排出量内訳
    図 2 世界の CO2 排出量内訳 2)

    図 3 に主要国の近年CO2 排出量増加を⽰すが、新興国の経済成⻑に伴うCO2 排出増加の著しいことが分かる。特に中国の増加が急激で 2006 年に⽶国を抜いたといわれる。な おこれらの図にはロシアのデータが⼊ってない。

    図 3 主要国・地域の CO2 排出量⽐較(1971⇒2018 年)
    図 3 主要国・地域の CO2 排出量⽐較(1971⇒2018 年) 2)

    図4 に主要国の電源構成に占める再⽣可能エネルギーの⽐率を⽰す。⽇本は 18%で、3〜4 割を⽰すドイツ、英国、スペイン、イタリアなど欧州各国と較べて⼤きく⾒劣りする。

    図 4 主要国の電源構成に占める再⽣エネルギーの⽐率(2018 年)
    図 4 主要国の電源構成に占める再⽣エネルギーの⽐率(2018 年) 2)

    図 5 に主要国の化⽯エネルギー依存度を⽰すが、先進国中では⽇本は 88.6%で、英国、ドイツ、フランスと較べるとまだ⾼い。フランスが特に低いのは原⼦⼒を使⽤しているため。

    図 5 主要国の化⽯エネルギー依存度(2017 年)
    図 5 主要国の化⽯エネルギー依存度(2017 年) 3)

  5. ⽇本の CO2 排出量

  6. 最も基本となる我が国の⼀次エネルギーの国内 供給推移を図 6 に⽰す。以前は⽯油が⼤半を占めて いたが、1995 年頃よりやや低下傾向にあり、最近で は天然ガスが増えている。

    2010 年までは原⼦⼒の使⽤もあったが、事故以来使⽤出来なくなり、その分化⽯燃料の消費が増えた。2015 年に 90%まで上昇したが、再⽣可能エネルギーの導⼊や原⼦⼒再稼働などにより⽯油⽕⼒の割合が減少したが、まだ化⽯燃料 85%程度になっており、これはまだかなり⾼いと思われる。

    図 6 我が国の⼀次エネルギー国内供給の推移
    図 6 我が国の⼀次エネルギー国内供給の推移 3)

    次に⽇本の電源構成の推移を図 7 に⽰す。LNG、 ⽯炭、⽯油など化⽯燃料で約 77%、残り 23%が脱 炭素エネルギーである。この値は図 6 の 2019 年の 値とは異なるが、図 6 中には⽔⼒が除かれている。

    図 7 ⽇本の電源構成の推移
    図 7 ⽇本の電源構成の推移 4)

    図 8 に国内の CO2 排出量を部⾨別にしたもので、発電所やガス⼯場などの「エネルギー転換部⾨」が全 の 4 割近くを占め、電⼒の脱炭素化は⾮常に重要 なテーマであることが分かる。

    第 2 位が⼯場などの「産業部⾨」、第 3 位が「運輸部⾨」となっており、これらトータルで約 8 割に及ぶ。

    図 8 ⽇本の部⾨別 CO2 排出量の割合
    図 8 ⽇本の部⾨別 CO2 排出量の割合 3)

    また産業部⾨のCO2 排出量を図 9 に⽰す。鉄鋼は産業部⾨の排出の約 5 割を占める最⼤排出産業である。

    ⾼炉における鉄鋼産業では鉄鉱⽯から⽯炭を⽤いた還元反応で鉄を精製しているが、この過程で⼤量の CO2 が発⽣する。脱炭素化のため⽔素による還元の技術開発が進められているが、後述するように単純ではない。

    図 9 産業部⾨の CO2 排出量の内訳
    図 8 ⽇本の部⾨別 CO2 排出量の割合 3)

  7. 今後の課題

  8. これまでの中から⽇本の直⾯する⼤きな問題を拾ってみると、まず⽇本が排出する CO2 のうち約 4 割が⽕⼒発電所からの CO2 排出である。従って脱炭素を進めるにはこの⽕⼒発電からの排出量を⼤幅に抑える必要がある。

    しかしこれを補うため再⽣可能エネルギー(太陽光、⾵⼒など)を使⽤すると、天候など⾃然条件の変動、⽇照量や⾵量などにより⼤幅に変動するため、現状では基幹部分をこれに置き換えることは出来ない。

    これに対して⽕⼒発電は安定した⼤きな供給能⼒と、太陽光発電や⾵⼒発電などの変動に即時対応できる能⼒を持っている。従って今のところこの⽕⼒発電を全⾯的に中⽌しようという考えはなく、徐々に再⽣エネルギーを増やしていくことくらいしか出来ない。

    もう⼀つの課題が⾮電⼒部⾨で産業部⾨の雄である鉄鋼。実に産業分野の 50%の CO2 を排出している。

    ここでの有⼒な選択肢は⼆つある。⼀つが電炉の活⽤である。鉄スクラップを原料とする電炉はCO2 排出量が 4 分の 1 少ない。

    もう⼀つが⽔素還元である。最終的にはこの⽔素還元になるといわれているが、これも問題が多く先が⾒えないのが現実だ。

    5 ⽉ 23 ⽇付⽇経電⼦版に欧州⼤⼿の SSAB で⽔の電気分解からつくる「グリーン⽔素」を⽤いて⽔素製鉄を⾏う旨の記事が⼤きく報じられていた。電解に使う電気は太陽光発電によるといわれるが、詳しくは次報にゆずる。

参考文献
1)気象庁 各種データ・資料より
2)みんなで考える脱炭素社会、松尾博⽂、⽇本経済新聞
3)経済産業省資源エネルギー庁資料・「エネルギー需要の概説」より
4)資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」より
5)カーボンニュートラル超⼊⾨、前⽥雄太、技術評論社

以上
「機材工」夏季号2022年秋季号より

contents