新聞の短歌・俳句欄に投稿して入選したものの中から、
十作づつ抜き出して、作順ではなく季節順に並べました(筆者)。

澄みわたる空と枯野を画[かぎ]り立つ伊予の高嶺*1に映ゆる朝光[あさかげ]


厳冬に敢えて咲き出ずる寒木瓜[ぼけ]の血潮のごときくれないの花


黒竜江「アムール」を挟みソ連と対峙せし、我が成人の日のはるかなり

                                                .....私は軍隊に入隊した日を成人の日と決めている


貝掘りて蕨を摘みて縄文の人のごとくに春おくりゆく


老妻を入院させて一人住む部屋の広さに未だ馴染めず


哈爾浜
(ハルビン)の営庭に立ち呆然と玉音放送聞きし暑き日


〈冬の旅〉唄ふフィッシャー・ディスカウのLPに酔ふ長き夜の秋


蹲踞
[つくばい]*2に水浴みに来いし鵯[ヒヨドリ]もいつしか去りて秋暮れんとす


初冬
[はつふゆ]の斜陽輝く西空は金の薄衣[うすぎぬ]広げたるごと


来る年に幸多かれと願いつつ唄へや〈第九・よろこびの歌〉



注記
*1 伊予の高嶺:西日本最高峰の石鎚山
*2 蹲踞:庭の手洗い用の石鉢