爛漫の春 日本国の社会、経済も陽気めいてきましたが、オキテルさんには定期検診でも大事ないとのこと、欣快至極に存じます。寒がりの小生も寒さから解放されて、気分的にも楽になりました。

庭の手入れの件ですが、秋の剪定は本職に頼みますが、春は自分で何もかもしなければならず、その上猫や犬に荒らされて、お手上げ状態です。

さて、「松林図」ですが、実景ではなく、等伯の心象風景を描いたものですが、基本的には山水画なので、山を省くことは出来ません。

この絵は当初、障壁画の草稿?であったものを上下左右を切り縮めて6曲1双の屏風にしたものですが、オキテルさんが見られたのは左隻(左側)の6曲でしょう。

注:松林図左隻右上の白い山を、「取って付けたように感じた」との小生の感想に対する叔父の返事


左右2枚がそろったものを印刷物かネットで見たらよくわかるのですが、左隻の右端に山があると言うことは、左右両隻をあわせると、山は画面の中央部分にあることがわかります。

それをふまえた上で山の左下側を見ると松林が前景、中景、遠景と階段状に連なり、さらにその後ろに白い山が微かに見えます。この山を頂点にして、その左下の部分は見事に三次元的空間が表現されているのです。

等伯が意図的にこの部分だけを三次元的空間にしたのか否かはわかりませんが、美術史家 戸田禎佑氏は、日本の水墨画で3次元空間のイリュージョンの表出に最も成功した一例に「松林図」を挙げております。

オキテルさんは縄文土器が大変お気に入りのようですね。ご存じかと思いますが縄文も弥生も土器を作ったのは女性だったと言われています。これは日本だけでなく世界的にもその実例が認められます。

10数年前に佐賀県の伊万里と吉野ヶ里遺跡で、世界焼物博が開催されたときに、土器作りの実演がありましたが、土器を作っていたのはタイ国から来た女性でした。

三の丸尚蔵館は残念でしたね。小生も展示室の狭さに失望しました。出光美術館には出張の度によく行っていました。

目当ては、仁清の「芥子文壺(重文)」でした。この壺は仁清の最高作ですが、関東大震災のときにマントルピース上から落ちて5個に割れたのを修復した、いわゆるキズ物ですが、もし完品なら当然国宝に指定されるものです。

なお、重文の古唐津の壺は、今治の私の知人の家からでたものです。

京都の庭園が撮影やスケッチを禁じているのは、図録や絵はがきの売り上げに影響するからでしょう。桂離宮が入園を制限しているのは、管理上の理由からです。近年ハイヒールなど踵の細い靴をはく人が増えて、飛び石や敷石が疵つくのだそうです。

さて、オキテルさんは、奈良にも行かれるとのことですが、新幹線で行かれるのでしたら、京都駅からは近鉄線で行かれるほうが便利です。

以前小生が奈良は一日あれば十分と書きましたが、それは今治から夜行フェリーで往復していたときのことで、千葉からでは一日でも十分とはいきません。

一日で巡るには早朝から夕方までかかります。全く「最近は忘れるだけで覚えない」です。

そこで一日分を選びましたのでその中から取捨選択して下さい。

奈良は仏像といいますが、仏像といへばお寺です。お寺といへば東大寺です。もう既に行かれたかと思いますが、もう一度おさらいをしてみませんか。


南大門

大仏殿
http://k-kabegami.sakura.ne.jpより

「東大寺南大門」 日本一の山門で、貫(柱と柱を横につなぐ材)が揺れを吸収する耐震構造になっています。その両側に運慶と快慶によって造られた高さ約8.5mに及ぶ日本一の「大仁王像」が出迎えてくれます。

「大仏殿」 木造建築として世界で一、二の大きさを争っています。大仏殿の入り口の前の金属製の灯籠も国宝です。

「大仏」 現在の大仏の頭部は江戸時代に復元されたもので、あまり良くはありませんが、胴体部分から下は立派です。特に台座の蓮弁に刻み込まれた「蓮華蔵世界図」は人間技とは思えないほど精緻を極めています。

東大寺から1kmほど離れたところに藤原氏の氏神春日大社があります。

「唐招提寺」 鑑真草創の寺として有名なこの寺の本堂は、奈良時代唯一のもので、正面に8本の列柱を立てた重厚な建物。


実像
http://www.toshodaiji.jp/images/about_mieidohph2.jpg

レプリカ
http://www.asahi.com

本尊は「盧舎那仏」ですが、当寺の目玉は何といっても「鑑真和上座像」です。普段は非公開ですが、今年は6月6日の和上の1250年忌の命日前後に公開するが、その後は新しく完成したレプリカが常時公開されるとのことです。

薬師寺伽藍全景の写真
薬師寺 http://www.nara-yakushiji.com

「薬師寺」 日本一美しい三重塔(東塔)は修復中ですが西塔が復元されています。


薬師如来

聖観音像
http://www.nara-yakushiji.com

本尊は「日光・月光両菩薩」を従えた「薬師如来像」(高さ約2.5m) 実に威風堂々としていて、古代ギリシャのゼウス像にも劣らない風格があります。小生は、本像をその精神性と貫禄と造形的質の高さから、日本の仏像の王様だと思っています。

薬師寺東院堂の「聖観音像」 この像は古く7世紀の作なので、やや生硬ですが、すっきりと均整の取れた美しい像です。お顔は何故か未成年者のように若々しく、気力に充ちたヒーローのようです。小生が最初に見たときは、その迫力に圧倒されそうでした。

「玄奘三蔵院」 金堂の最後尾に玄奘三蔵の仏教伝来の行程を示す平山郁夫の大壁画があります。必見です。

「法隆寺」 当寺は説明の必要も無い、まるごと世界遺産の世界です。

そこで今回は、「百済観音像」一点に絞ります。この高さ2.05mもある長身痩躯の仏像は「百済観音」と呼ばれていても日本製だそうです。

その根拠は朝鮮半島に産出しない楠の木で作られていうるからだそうです。(小生は確たる根拠とは言えないと思います。樹は動かなくても木材は移動します。)

「百済観音像」は、顔料が剥落して、お顔は原爆に被災したように爛れていますが、それを度外視してジーッと見ていると、若い女性と見紛うばかりに、ものしずかで優しく美しいお顔が見えてきます。また、横から見ても腹部があまり出てなくてスマートです。

このような美的感覚に優れた仏師が日本にいたのでしょうか。
百済観音像(Wikipedia)

奈良の見どころは他にも山ほどありますが、今回はここまでにします。

以上、小生の独断と偏見で、仏様にも失礼なことを書きましたが、小生は、偶像は崇拝しません。が、長年人々に崇められてきたものに対する敬意は持っています。

なお、奈良での移動には、市内循環バス・西の京、法隆寺方面行きバス・割引バス、観光バス(市内・西の京)などがあるので、詳細はガイドブックなどで調べて下さい。

では今回はこれで失礼します。

2013・4・11