新年改めましておめでとうございます。

オキテルさんご一家には恙なく新年をお迎へのことと存じます。私共も昨年末は土地を売却するため、花卉や果樹の整理をしたり、愚妻が精神的に不安定だったりして、ゴタついておりましたが、何とか大過なく越年することができました。

そこで松の内は心身共に精養して、積もりつもったストレスを発散しようと思っていましたら、施設から愚妻が風邪を引いて熱が高いので、点滴をするから数日付き添いにこいといわれて、更にストレスが溜まってしまいました。現在は平癒しましたのでご休心下さい。

さて東博の「松林図屏風」が公開されるとのこと、良い機会に恵まれましたね。もう既に見られたと思いますが、私が数十年前に国宝展で「松林図」を見たとき、過去に見ていた等伯の水墨画と画風が違うので、作者の意図が判らなくて、とまどっておりますと、隣に居た中年の女性が「風が流れているようですね」と云いました。

それでハッと気が付きました。これは風景画ではなく日本の風土の「気」を描いているのだと。今では、「松林図」は中国山水画の影響を越えた、日本最高の山水画だと思っています。

   

雪舟の「秋冬山水図」は、「秋景山水図」と「冬景山水図」の2枚セットになっていて、どちらも東博にあるので、運が良ければ2枚とも見ることができます。雪舟の作品も中国の山水画の亜流ではなく、雪舟独自の力強い運筆によって、高い精神性が表現されています。

尾形光琳の「風神雷神図屏風」は、俵屋宗達の同名の絵を模写したものですが、宗達の絵に比べると、やや線が細いような気がします。なお、光琳の絵の裏面には、酒井抱一の「草花図」が描かれています。

オキテルさんは奈良・京都は的を絞る必要があると感じているとのことですが、それは正解です。奈良は正味一日あれば、主なものは見られると思いますが、大和王朝の発祥地飛鳥地方まで足を伸ばすと、もう一日必要です。

京都は一日や二日ではほんの一部しか見ることはできません。私は所属団体の研修旅行や私的旅行で京都に20回以上行っていますが、それでも見落としているものが沢山あります。

それは京都の優れた美術品(就中障壁画・襖絵・屏風)は、それぞれの寺院の付属物で、その寺院に行かなければ見られなく、すべての寺院を巡るのは容易ではないからです。

そこで私もご参考までに三ヶ寺に的を絞ってご案内しようと思いますが、その前に桃山・江戸時代における京都画壇の状況について概略話しますと、この時代は狩野派が圧倒的な勢力を保持していて、京都の寺院等には巨匠永徳を始め宗秀・山楽・光信・探幽らの筆といわれる作品が充ちあふれています。

しかし、それらの作者名の大半は寺伝によるものであって、真筆である確証はありません。特に永徳の筆といわれる作品は、代表作の大部分が兵火に焼かれたにもかかわらず、数多くありますが、真筆と認定されて現存するのは数点のみです。

したがって、その価値は極めて高く、3点が国宝に指定されています。その国宝3点のうち2点が、大徳寺塔頭、聚光院(大徳寺本坊横)にあります。作品名は下記のとおりです。

「琴棋書画図」淡彩
「花鳥図」水墨



2作品とも客殿の襖絵で永徳24歳のときの作で、若き天才画家の真面目を伝える貴重な作品です。

当院には永徳の父松栄の作(国宝)もあります。

なお国宝3点のうちもう1点代表作の「桧図」は東博に、御物「唐獅子図」は宮内庁にあります(若しかしたら宮内庁三の丸尚蔵院にあるかも。)

書き洩らしていましたが、狩野派の大半が真筆である確証はないと書きましたが、確証のない作品はすべてニセ物ということではなく、確証がなくても真筆もあるだろうし、優れた作品も多数あります。例えば、南禅寺の(伝)永徳は真筆とみる論者も居ます。

では次は、聚光院のすぐ奥の大仙院(大徳寺塔頭)を見てみましょう。当院は絵画ではなく、枯山水の最高傑作と云われる名園で有名です。大徳寺は本坊を始め各塔頭とも名園揃いですが、当院の庭にはストーリーがあります。

東庭は僅か奥行き3メートルの空間に、深山幽谷を表す絶妙な石組みから滝が流れ落ち、川となって大海に見立てた白砂だけの広い南庭に連なるという具象的な庭で、抽象的な竜安寺の石庭と対極をなす名庭です。

当庭は竜安寺の庭のように喧騒ではないので、私は時間があれば度たび当庭に来て、しばしの静寂を楽しみました。

次は智積院(東山区東瓦町)に行ってみませんか、当院は強大な狩野派に対抗した長谷川派の牙城で、長谷川等伯の「楓図」(国宝)息子久蔵の「桜図」(国宝)のほか4点桃山文化を象徴する絢爛豪華な金碧障壁画があります。


智積院ホームペ−ジより(部分)
http://www.chisan.or.jp/sohonzan/keidai/img/syuzoko_h1.html


智積院ホームペ−ジより(部分)
http://www.chisan.or.jp/sohonzan/keidai/img/syuzoko_h3.html

以上、聚光院、大仙院、智積院の三院に的を絞りました。

ただし、これはあくまで参考資料であって、これに拘ることはありません。オキテルさんはご自身のご意志で好きな場所を選んで下さい。

京都は、春は桜の、秋は紅葉の名所も各所にあるので、この時期に行かれたらいかがですか。この時期は京博、国立近代美術館、市立美術館も、良質の企画展を開催しています。

話は変わりますが、ポーラ美術館にはオープンの2年後の2004年に行きました。実は私の所属団体の研修旅行で箱根関所など芦ノ湖周辺の史跡を巡ることにして、周辺地域を調査していましたらポーラ美術館に国内外の名品が多数あることが判り、当初予定していた箱根美術館を取り消して、ポーラ美術館に変更しました。

まず建物が斬新ですね、周囲の景観に配慮しているのも好感が持てます。入館すると聞きしに勝る豪勢なコレクションでした。

なかでも、驚いたのは日本趣味で有名なモネの「睡蓮の池」がここにあったことです。この絵のテーマは睡蓮ではなく池だったのですね。そのため画面を横断する日本風の橋をやや上方に上げて、池の広さを強調し、バックは緑の樹木で掩って遠景を遮り、自然に目が池面に向くように計算されています。流石モネですね。

オキテルさんは、岡田三郎助の絵が気に入ったとのことですが、私も彼の絵は大好きです。私はあのような品格のある絵が好きです。

今回はこれで失礼いたします。

2013.1.21