頭の中が真っ白になった
2009/7/2

エレクトーンを習い始めて12年になる。

昨年に続き、また、ソロで舞台に出ることになった。昨年始めてソロで出場し、特別賞をもらった。それもあって、先生は、今年もでなさいと勧めたのだろう。自信はないが去年のようなこともあるし、出ることにした。

いよいよ出番、椅子に座り、演奏の準備をし、司会者の紹介が終わるのを待つ。ふと足元を見ると、暗くてペダルの位置がよく分からない。不安が頭をよぎる。ペダル操作はまだまだ自信が無く、目で位置が確認できないと安心できないのである。

司会者の「用意は宜しいですか」の声に、一応、首を縦に振る。他に選択肢はない。舞台が明るくなり、足元も見られるようになった。ほっとする。

演奏開始のためのリズム伴奏開始ボタンを押す。再びあれっと戸惑う。出だしのリズムの音が聞き取りにくい。

しかしことは進む。山勘で演奏を開始した。しかし、慌てたためか、最初のペダルだけの演奏を、3小節目からの、左手を入れての演奏でスタートしてしまうポカ。

演奏しているうち、リズムと合ってないことに気づく。手が止まってしまう。適当なところで、演奏に入っていこうとするが、全然動けなくなった。

係の人が来て最初からやり直せと言う。ほっとして、やり直す。ところが、設定を間違え、おかしな音が出てくる。もう一度止め、やり直す。やはり出だしのリズムが聞き取りにくい。

ともあれやり出す。しばらく演奏したところで、次の演奏へどう移ってよいのかわかなくなり、また手が止まってしまった。もう頭の中は真っ白である。

勝手に鳴っているリズム演奏を止め、立ち上がり、「大変なお耳汚しをしてしまいました。済みません」と一礼して退場した。

何故か拍手が聞こえた。

舞台裏に控える先生のそばに座る。「申し訳ない」と謝る。慰めてくれるが、聞こえない。

最後の演奏者は、小生と似た世代の男性だ。大変、見事に演奏した。

これで終わりなのだが、荷物を置いてある席に戻る気になれない。
皆が席を立ち始めるのを見計らって、先生に挨拶し、席に戻り、荷物を取って、会場を後にした。

頭が真っ白になるという経験は、生まれて初めてである。無論あれこれと失敗はたくさん重ねてきたが、このような精神状態になった記憶はない。

帰宅後、かみさんがどうだったかと聞く。ありのままを話す。あきれたような顔をする。

「一度にあれこれやろうとする落ち着きのなさが、そういう結果になるのよ、もう少し、落ち着いてゆったり行動したらいいとおもう」等と批判する。返す言葉はない。

日が経つにつれ、「いい年して、あれほどあがってしまうとは」「この歳になってあのような大失態」という思いがよぎり始め憂鬱になる。

今回の演奏を上手くはなくともやり遂げ、古希の記念としようと目論んでいたのだが、実に惨めな、しかし、忘れられない経験となった。