モーツァルトの頭蓋骨
2007/4/17
モーツァルトは小生も大好きな作曲家である。オーディオに凝った頃、モーツァルトの全曲のレコードを集めようと考えたこともある。
最近、「そこに モーツアルトが いたから」と題する本(エリック=エマニュエル・シュミット著)を読んだ。著者が、モーツァルトに手紙を送る形の文章で、その中に、下記のような文章があった。
親愛なるモーツアルト、
先日の夜、ぼくはある古生物学者に出会った。きみの遺骨を調査したことがあるっていうんだ。共同墓地の墓穴から引きだされ、何世紀ものあいだ丁重に保管されてきた頭蓋骨が、実際にきみのもので、DNA鑑定の結果、身元が確認された、という話に得心がいくと、ぼくは好奇心に駆られてたずねた。
「では、どこか変わったところがあるんですか、モーツアルトの脳には?」
「彼の脳について、特に問題になることはありません。その代わり……、いや、あなたにはショックでしょう……。」
「大丈夫です、おっしゃってください。」
「いや、気分を害されますよ・…‥。」
「おっしゃってください。」
「そうですか、もしあなたが彼の歯の状態をごらんになったなら……、ひどいものです!」
本当かと思った。そこで早速インターネットで情報を探した。ある、有る。しかも、モーツァルト生誕250周年の2006年を前に、モーツァルトのものと言われる頭蓋骨の真贋を確かめるプロジェクト実施され、その結果が2006年1月に発表されている。6月28日には、NHKテレビでも放映されたらしい。
こんなビッグニュースを全く見逃していたことを実に情けなく思う。一連の経緯を追うと下記のようになる。
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モーツァルトの頭蓋骨
モーツァルトは1791年に亡くなった。経済的困窮から共同墓地に埋葬されたため、彼の遺体の正確な位置は定かでない。
注:経済的困窮でなく「当時の習慣で」とするインターネット情報もある。
1801年、墓堀人ロートマイヤーによって共同墓地から掘り出され、ある人に譲渡されたといわれる頭蓋骨が、現在、ザルツブルクの国際モーツァルテウム財団に保管されている。
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真贋論争
そもそも、1801年に共同墓地から掘り出されたときから、本物かどうかの疑いは持たれていた。
頭蓋骨から顔の様相を割り出すスーパーインポーズ法でモーツァルトだと認定され、保管されているらしいが、それで真贋論争が終結したわけではない。
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DNA鑑定プロジェクト
生誕250周年を間近にDNA鑑定で真贋に決着をつけようというプロジェクトが2004年10月に発表された。
下記は、インターネットで公開されたニュースである。
モーツァルト(1756〜1791年)のものとされる頭蓋骨の真贋に決着をつけるため、DNA(遺伝子)鑑定が行われることになった。
オーストリアのウィーン医科大学教授らの研究チームが、モーツァルトの生地ザルツブルク市当局の許可を得て、同地に眠っていた父親や姪の遺骨を掘り出した。これらの遺骨のDNAを、同地の国際モーツァルテウム財団が保管する頭蓋骨のものと比較し、結果を生誕250年の2006年に発表する計画だ。
以上読売新聞WEB版2004/10/28/21:13
鑑定の対象になったものは
・モーツァルトのものとされる頭蓋骨の歯
・モーツァルトのものとされる何本かの髪の毛
・モーツァルト家の墓から取り出された、祖母と姪のものとされる遺骨(注)
注:上記新聞情報は、父親の遺骨を掘り出したとあるが、実際に鑑定の対象となったのは祖母の遺骨らしい。新聞が誤りであろう。
結果は後述するが、このデータと最初に引用した本の文書との関係が今一つすっきりしない。
小生が読んだ本は、原著が2005年に出版されている。ということは、DNA鑑定プロジェクトの発表(上記新聞発表は2004年10月28日)とほぼ重なる頃、あるいは、それ以前の執筆だろう。上記プロジェクトの結果が得られる前であることは間違いない。
その時点で、「何世紀ものあいだ丁重に保管されてきた頭蓋骨が、実際にきみのもので、DNA鑑定の結果、身元が確認された」となっている。
もし、それが事実なら、改めてDNA鑑定など必要ないはずだ。上記プロジェクトとは別に、著者の会った古生物学者あるいはその知人がDNA鑑定をしたということだろうか。
もしそうなら、その鑑定結果は、公表されなかったか、正しいものとして認められなかったと言うことになる。
さて、上記プロジェクトのDNA鑑定の結果だが、下記のようになったという。
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祖母と姪のものとされた遺骨は互いにまったく親族関係にない
モーツァルトのものとされる頭蓋骨とも家系的なつながりがまったくない
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モーツァルトの髪の毛とされる複数の毛は、すべて別人のもの
この髪の毛はすべてモーツァルトのものとされる頭蓋骨と関係ない
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この鑑定で、DNAが一致したものがまったくない
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従って、モーツァルトのものとされる頭蓋骨を比較する対象がまったく得られず、この頭蓋骨が本物ではないということも確証できない
ということで、鑑定の結果、謎はさらに深まってしまった。
「モーツァルト一族としてモーツァルト家の墓に埋葬されている人々は一体誰なのか?」と疑問が呈せられているが、本当におかしな話しではある。
また、読売新聞にある、父親の遺骨というのは、モーツアルト家の墓にはないのだろうか。あれば、当然、DNA鑑定の比較対象になったはずだと思うのだが...
一年以上も前のニュースに今頃、驚いている間抜けな文章だが、ともあれ、気になることなので書き記しておく。