
金井孜夫
イノベーション・サイクルは、これを取り巻く「場」と交流しながら回って行く。「場」は大きく分けて、2種類に分かれる。一つは、創造的な“破壊”を基調とした「コンセプト創造の場」で、もう一つは、各種の国際的な基準が働く“規制的”な「開発と事業化の場」である。新薬創製のイノベーションは、この相反する2種類の「場」とうまく協調・協働しつつ進められるという特徴を持つ。 医薬における「コンセプト創出」とは、医療上の未充足ニーズ(Unmet-Medicine)のスペックと、これを実在化する新しい方法論とのマッチングを指す。その方法論(例えば、遺伝子工学、コンビナトリアル・ケミストリー、情報技術等)は、必ずしも企業の側からのみ発生するのでなく、むしろ多くは外部の「場」である大学・国公立研究所等の公的機関あるいはベンチャーによって案出されている。製薬企業にとっては、これらの外部の第三者との協働が必要で、かつその 巧拙が競争力の差となってくる。 新薬1品目の承認取得には、おおよそ12,000個の化合物を必要とし(図表3)、開発費用は150〜200億円と言われている。また、活性物質の創製から承認の取得まで、通常10〜18年を要する。筆者が関わったインターフェロンでは12年、プロスタグランジン製剤では15年であった。また、市販後も、通常6年間の副作用追跡調査が必要である。
このように長期にわたる医薬品のイノベーション・サイクルを円滑に駆動・回転させるには、中心軸が必要である。この中心軸は、イノベーション・マネジメントに関わるキー・マンであって、既存企業の場合は“プロジェクト・マネジャー”(PM)であり、サイクルがベンチャー的に開始された場合は、いわゆる“起業家”である。効率的な開発を達成した企業のプロジェクト・マネジャーは、単なる組織内調整者(コーディネーター)ではなく、コンセプトの守護者として重量級の機能を果たしていると言われている。 企業においては、医薬品産業のみならず他の産業においても、このプロジェクト・マネジャーたる人物が欠かせない。プロジェクト・マネジャーは単に一つの専門性を持つだけでなく、技術から経済性・市場まで全体を把握し動かせる「広い視野・見識」を持っていなければならない。筆者は、そのような人材の基盤・素地は大学、特に総合大学において培われ、就中、工学部はその任を果たすべきであると考えている。
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