チュウリンゲンの森 |
梅垣 高士
シンポジウムは前日で終わり、7月14日は、イエナへ来て5日目、Post Conference Tour で、地元チュウリンゲン(http://www.thueringen.de/de/)を鉄道ではなく、バスで案内してもらうことになっていました。イエナのあるチュウリンゲン州は、旧東ドイツの最も南にあり、東は、ライプチッヒやドレスデンがあるザクセン州と接しています。チェコの国境に近い、ドレスデンは、第2次大戦末期に空襲により、壊滅的な被害をうけましたが、最近、また、大水害に見舞われました。
バスツァーは、学会参加費とは別料金になっているためか、参加者が少なくて、なるべく出て下さいとの話があり、招待された形にもなっていましたので、半ば、主催者への義理立てのために参加しました。日本人の他は、チュニジア、モロッコからなどアラブの人が多く、主催研究室の学生を含めても、全体は30人弱で、大型バスの定員の三分の一位の寂しさでした。
ライプチッヒやベルリンの往復の車窓から見えたのは、起伏のあまりない畑の黄色と所々の緑だけです。イエナからバスで2時間くらい南下しても、やはり、ずっと同じような単調な風景が続きます。黄色は、日本の麦秋の頃のような麦畑と冬の家畜飼料用の草地です。飼料用の草は、麦と同じ位の背丈で、遠目には麦畑と余り区別がつきません。緑は、トウモロコシです。そして、農家が、何キロか離れてぽつんぽつんとあるだけなのです。
最初の見学場所は、チュウリンゲンの森の中にある水力発電所で、この地方の最大の能力を誇るものであったようですが、ダムの大きさ、発電能力の点で、黒四なんかとは比較にならない位、小さい。大体、ドイツの東半分の地域は、最高の標高でも、霧で著名なブロッケンの山塊で、1000mを少し越える程度なのです。
昼食後、レストランとつながっているガラス細工の工場の見学。イエナもガラスで知られているし、隣のザクセン州には、陶磁器で有名なマイセンがあるし、国境の向こうは、ボヘミアンガラスのチェコだし、ここも、余り知られていないけれども、芸術的な香りのするガラス工芸品があるのではないかなんて、ひそかに期待していたところ、日本の観光地の土産屋にあるようなものばかりでした。早々に出てきたところ、外にいたのは、日本人ばかりでして、レストランの戸外のテーブルに集まって、江戸切子や薩摩切子なんかの方がはるかに良いなど、ぶつぶつ。
最後の見学は、Schloβ Kochberg で、北へかなり戻って、イエナの南、約 40km のところにあります。ゲーテとシャルロッテ・フォン・シュタイン夫人との関係は、文学史上でもよく知られていますが、シュタイン家の別荘がここで、ゲーテがしばしば訪れていたそうです。イエナとかワイマールからですと、今でもバスで、片道1時間くらいかかりますから、当時だと、馬車かなんかとしても、通うのはかなり大変だったのではと余計な心配をしました。
Schloβ Kochberg は、今も堀がありますので、かつては、違った建築で、外敵の侵入にそなえるための造りであったのかもしれません。しかし、現在の建物自体は、ルネサンス様式で、小さいながら、優雅な美しさなので、これは、やはり、城というよりは別荘です。
内部の見学が可能になっているのに、目の前で閉まってしまいました。日本だと午後3時ごろの感じで、まだこんなに日が高いのにと思ったのですが、時計をみれば、6時ちょっと前。つまらないガラス細工のところで、モロッコの連中がなかなかバスに帰って来ないで、時間をとってしまったせいです。
Schloβ とか Burg は、チュウリンゲンだけで、30 以上あります。ドイツ全土だと大小合わせると数百あるんじゃないでしょうか。独和辞書では、Schloβ は、館とか城で、Burg よりは広い意味を持つような感じもしますがはっきりした違いはわかりません。形もさまざまなのですが、英語の訳では、いずれも castle としているようです。宿泊できるところもあり、泊まるとドイツの貴族になったような気分になれるかもしれません。詳細は、こちらで
http://www.thueringen-tourismus.de/TISWeb.Dll?LieferInfoSeite(MKMART||TYP?INDEX||HTML_FRAME)
どうぞ。
庭などを見た後、大型バスには、すこし無理とも思える細い農道を上って、Schloβ Kochberg の裏の小高い丘の上に出ました。バスを降りて、眼下に広がる、チュウリンゲンの森と田園風景を眺めながら、サンドイッチとスープの軽食をとって、見学も終わりとなりました。午後9時ごろ、まだ、明るいイエナに帰り着き、シンポジウムの全日程を終了しました。
チュウリンゲン州内では、自然の美しさを求めるのは、無理かもしれませんが、イエナ、ワイマールとか、今回は行けなかったBachの生誕地アイゼンナッハなどの、文化的遺産を訪ねる旅を計画するのならば、楽しめるところも少なくないのではないかと思います。
チュウリンゲンに限らず、ドイツの国内ならば、鉄道網が発達していますので、広いアメリカなどと違って、鉄道を利用すれば、1−2時間で、著名な都市間を移動できます。ベルリンのような大都市を除けば、街自体も余り広くないので、徒歩で歩き回ってもそれほど大変ではありません。今回のような、鉄道の便がいいところに滞在して、好きなところへ出かけるやり方ですと、同じ宿に帰ってきますので、多少、夕方遅くなっても、不安がなく、年寄りが旅行するのに向いてるかもしれません。
アメリカに9ヶ月位滞在したことはあるものの、真面目(?) に仕事だけして帰ってきましたし、いままで、海外旅行といえば、学会への参加のためしかしたことがありませんでした。今回も、シンポジウムの会期に合わせてはいたものの、はじめて、少しばかり自由で、観光的な旅を楽しみました。学会参加もこれで終わりにして、これからは、もっと気ままな海外旅行をしてみたいものだと思っています。
これで、「ドイツ東部の鉄道の旅」は、終わりします。駄文に、最後まで付き合ってもらって有難うございました。