猫と暮す

酒井孝真

「語っぺし」の投稿によれば、鷺君は2歳の若猫たちと暮しているようですが、私は16歳の牝猫と暮しています。人間に換算すると、204(x−1)=80歳 ということになるそうです。

この猫は茶と黒が交じった所謂「きじ猫」でまるで迷彩色、器量の悪いことこの上なしですが、西洋系の血が交じっているのか、細面で足も尾も長くスリム、そのプロポーションはかなり気に入っています。

この猫を含めて我家は過去に3匹の猫を飼った経験がありますが、猫の性格もいろいろだなと感じています。

最初の猫は西日本系らしく尾の短い牝の茶と黒のトラ縞の牝で、宮崎県の海辺で雨に打たれて震えていた赤ん坊猫を拾ってきたものですが、目の前にあっても盗み食いはしない、テーブルの上にも乗らない、一度叱れば同じ悪さはしないという近所でも誉められるくらい利口な猫でした。

生魚の骨をばりばりと食べるかと思うと、パン、チーズ、焼き海苔が好きで、人間の食べるものは大抵食べていたようです。

面白いことにピアノの音がすると逃出し、フルートだと喜んでゴロッと寝そべって聴いていました。

猫は家に付くと言いますが、やがて隣町に転居し、更に横浜へとやってきても、私の見たところでは見事に順応していたようです。

もっとも、羽田で飛行機から降ろされた時には腰が抜けた状態で、家族とは別の荷物扱いですから、可愛そうに離陸の瞬間はまさに驚天動地の思いだったろうと、後でひたすら反省したものでした。

当地でも捕ってきたスズメを披露したりしながら数年元気でいましたが、外に出るのが大好きな田舎育ちが仇になり、10歳過ぎで車に轢かれて死んでしまいました。

今の猫はその翌日に動物愛護協会から貰ってきたものです。実は友達がいた方がいいかなと、その翌日に牡猫も貰ってきたのです。

こちらは灰色と白の惚れ惚れするようなきれいなトラ縞で、美男だからと「ロミオ」という名前を貰っていたのですが、これが相棒の牝猫を押し退けて餌を一人占めにする、相棒を枕にして昼寝する、運動はしないという、どうしようもないグータラ者で、若くして太り過ぎの成人病気味になり、結局尿毒症で早死してしまいました。

今の猫ですが、スリムなだけあって跳躍能力は抜群、運動大好きで、吹き抜けの天井まで駆け上る、カーテンには攀じ登る、したがって壁紙などは傷だらけといった状況でした。

性格は一口で言うとオッチョコチョイ、好奇心が盛んですが後先考えず行動という口なので、障子があれば向こうに行ってみたくて頭を突っ込む、隣家の高い屋根に登って降りられなくなる、電気工事屋が来ればつきまとってうるさがられるといった具合、それも何度怒られても学習効果がないのです。

しかし、こういう性格ですから、逆に私の遊び相手としては反応があって面白い猫だったと言えます。

大好きなのはお腹を撫ぜてもらうことで、尻尾に触られると怒ります。最初の猫は尻尾に触っても平気でしたが、腹に触られるのが大嫌いで、この点でも2匹は対照的でした。

さて、これからが本論なのですが、この猫の運動能力も過去の話で、寄る年波には勝てず、このところ老化が目だってきました。

もうタンスの上には飛び乗りませんし、テレビの上もたまにしか乗りません。飛び降りる時も以前は音もなく軽やかに着地していましたが今はドスン、バサッ、柔軟性がガタ落ちです。

加えて今年のこの暑さでまいったのか、食欲が極端に落ち痩せて心配しました。この猫はキャットフード以外は食べませんが、「猫にカツオブシ」とはよく言ったもので、カツオブシにだけは目がないので、これで釣って何とか持ち堪えさせているところです。

ところで、私は当年90歳の母と同居していますが、猫と全く同じ時期に元気がなくなってしまいました。さすがに人間同志は意思が通ずるだけ有り難く、なだめすかし元気付けながら夏を乗り切らせようとしていますが、緩やかな回復軌道もどうやら猫と似ており、私自身、2人の後期高齢者を抱えてうろうろしている感があります。

考えてみますと、この猫は人間の数倍のスピードで一生を駈け抜けつつある訳で、我が人生を速送りで見せられているようにも思えます。

猫の跳躍力や柔軟性の衰えは他人事ではなく、私の日課のジョギングでも脚のバネがなくなり衝撃が直に膝にきますし、ストライドも狭まるばかり、走行姿勢も悪童どもに指差して笑われるほど崩れてきています。

背中がかゆくても手が届かず、靴下を立ったまま履こうとしてもかなわず、女性たちに交じってヨガを試みれば全く身体が曲がらずサマにならない、と数え上げればきりがありません。

情けないと言ってしまえばそれまでですが、猫が私の年令を追い抜き母の年令に急速に迫っている今、このような自分の老化傾向に対し、猫を見れば納得でき素直に受け入れる気になるところもあるわけです。

こんな猫との老々同居の生活が何時まで続くか分かりませんが、当分は楽しめるといいなと願っているところです。

以上、我家歴代の猫たちの紹介と私自身の近況報告を兼ねて書かせていただきました。とりとめのない駄文で申し訳けありません。