東洋医学よもやま話 その10

〜東洋医学における健康観〜

北川洋三

才萩会のみなさん、お元気にお過ごしですか? 久しぶりに「東洋医学よもやま話」を、と思って最後は何時だったかとバックナンバーを確認したら、068月でした。 

 

3年前と知って、“光陰矢のごとし”、を改めて実感しました。

 

先般一寸したご縁が有って、東京倉庫協会という倉庫関係の業界の集まりで講演を依頼され、「東洋医学における健康観」というテーマでお話をしました。 

 

今回の「よもやま話、その10」はその時の講演要旨です。せっかくまとめたので「聞いてけさい」と思ったわけです。 

 

出典も併記してありますので、くわしく知りたい方はそれらの文献を参照して下さい。 

 

皆さんの健康対策の参考にしていただければ幸いです。

 

 

東洋医学における健康観 〜先人の知恵に学ぶ〜

 

I.      健康に生きるための知恵

1.    病は気から

 

東洋医学を語る上で欠かせないのが気の思想

 

   気とは一言で言うと「人体を構成し、生命活動を維持する基本物質」。

 

欧米の文献には “Energy” と約されているが、一寸物足りない感じ。

 

   「血気盛ん」、「血気にはやる」の「血気」も東洋医学の言葉。

体に栄養を与える働きを「血」、体を働かせる力を「気」と概念的に分けて使うがもともとは同じ物。中医学では「気血」という表現が一般的。

 

   体内の「気を養う・気をのびのびと巡らす」ことが健康の要諦

 

参考文献:@「はるかなる東洋医学へ」 本多勝一 朝日新聞社

A「東洋医学を知っていますか」 三浦於莵 新潮選書

B「気の不思議」 池上正治 講談社現代新書

 

2.    未病について

 

   未病とは:まだ発病には至っていないが、既に病気の芽を持っていて、そのまま進行すれば、いずれ発病してもおかしくない状態。

 

   「聖人不治巳病、治未病」(黄帝内経 四気調神大論篇):優れた治療家は既に発病している病を治すのではなく、未病の内に治す。

 

   未病医学は養生医学:健康人、半健康人を対象に生活の中で行なう、病気にならないための医学 = 西洋医学では予防医学

 

   発病の前に痰濁(たんだく)と瘀血(おけつ)あり(生活習慣病の典型)。

 

痰濁も瘀血も共に病理産物と言われるもの。

 

痰濁は体内にたまった脂質(これはメタボと同じ範疇の概念)

 

瘀血は血流の阻滞(これはドロドロ血液と同じような概念)

 

   生活の処方 = 養生

 

普段の生活はどうあるべきか(例えば過労を防ぐ工夫など)

 

食生活はどうあるべきか

 

心の養生はどうあるべきか

 

適度な運動は欠かせない

 

  参考文献Cの著者である劉影氏のお勧め「未病を治す八訓」

 

1少肉多菜2少酒多茶3少糖多果4少食多嚼5少塩多酢6少車多歩、7少怒多笑、8少憂多眠

 

参考文献:C「未病を治そう」 劉影 講談社現代新書

:D「未病医学入門」 日本未病システム学会 金芳堂

 

  西洋医学における瘀血へのアプローチ

 

MC-FAN(マイクロチャンネルアレイ・フローアナライザー)により、毛細血管と同等の径のチャンネル内を流れる血液の様子をヴィジュアルに測定できる。

 

食物や生活習慣とチャンネル内の血流の関連を解析している。

 

推奨される食物としては、例えば黒酢、納豆、青魚、トマトなど

避けるべき習慣としては、喫煙、過度なストレス、(肥満)など

 

参考文献:E「血液サラサラ生活のすすめ」 栗原毅 小学館

 

3.    養生について

 

江戸時代のベストセラー「養生訓」は中国、日本の古来の養生法を網羅した秀逸の古典。解説書もいろいろあるのでご一読を。

 

参考文献:F「養生訓・和俗童子訓」 貝原益軒 岩波文庫

:G「養生訓に学ぶ」 立川昭一 PHP新書

:H「養生の楽しみ」 瀧澤利行 大修館書店

:I「現代に生きる養生学」 石井康智 コロナ社

 

4.      自然治癒力について

 

  養生の目的は、換言すれば人間に本来備わっている自然治癒力を正常に発揮出る状態に保つこと。

 

  東洋医学の治療とは、自然治癒力が正常に発揮できるように手助けすること、と言うことが出来る。

 

  西洋医学における養生・自然治癒力に対するアプローチ

 

最近、西洋医学の立場からこのテーマを追求する試みが、かなりおこなわれている。

 

ホリスティック医学の展開:人の健康は心と体の全体の調和を図ることによって達成されるとする考え方に基づく医学(基本的に東洋医学と同じ)。

 

参考文献:J「ホリスティック養生訓」帯津良一 春秋社

:K「ホリスティック医学」 日本ホリスティック医学協会 東京堂出版

 

 

免疫力の向上により癌などの予防と克服をめざした展開

 

参考文献L「免疫進化論」 安保徹 河出書房

:M「非常識の医学書」 安保徹、石原結實、福田稔 
                                                              実業の日本社 

  1. 病気になった時の対処

 

5.      東洋医学における治療

 

西洋医学は病気(症状)に対して治療、東洋医学は証に対して治療。

 

  証とは、表に現れた症状の奥にある「病の元になっている体質」。

 

例えば:

難聴のA氏の証は腎虚証 → 腎を補う治療

腰痛のB氏の証も腎虚証 → 腎を補う治療

腰痛のC氏の証は瘀血証 → 瘀血を除く治療

 

A氏とB氏のケースは異病同治、B氏とC氏のケースは同病異治と言い東洋医学ではよくあること。

 

  因みに腎虚証の人が発症する可能性のある病気(症状)は例えば:

難聴、腰痛、冷え性、疲れやすい、風邪などにかかりやすいし治り難い、精力減退、頻尿など。

 

6.      東洋医学活用のポイント

 

西洋医学と東洋医学の得意と不得意を理解して使い分けることが肝要。

 

(1)  一般的には、感染症、急性症状は先ず西洋医学が第一選択。

(2)  科学的、分析的な検査は西洋医学の得意分野。

(3)  外科的な処置は西洋医学の得意分野。

(4)  各種の痛みの治療(急性、慢性を問わず)は、鍼灸が有効なことが多い。

(5)  慢性的な症状の改善には東洋医学(漢方薬や鍼灸)が有効な事が多い。

(6)  西洋医学の検査で明確な異常が見つからないが、自覚症状として不調がある場合は、東洋医学が有効な事が多い。

(7)  個々の症状に捉われず、体全体の調整は東洋医学の得意分野。

(8)  体に対する負担が軽い、副作用が少ない、は東洋医学の治療の特徴。