「東洋医学よもやま話」 その8 

北川洋三


またまた今回も生活習慣病関連の話です。

 

その前に、「その5」で東京中医鍼灸センター(小生等が共同で設立した鍼灸治療院)のホームページを作った旨お知らせしましたが、そのホームページに小生の師匠である浅川要先生が中医学に関するエッセイを連載していますので、興味がありましたら一度覗いて見てください。 URLは下記の通りです。

http://chuishinkyu.web.infoseek.co.jp/

さてそれでは本論に入ります。 「その6」で生活習慣病について書きはじめた時は、こんなに回を重ねるとは思っていなかったんですが、やはりこのテーマはもともと内容が多岐にわたっている上に、我々年代には特に身につまされることが多く、ついつい長話になってしまったようです。

 

前回の「その7」で痰飲の話をしましたが、今回は痰飲と同じように病理産物である瘀血(おけつ)について書いてみようと思います。

 

瘀血とは血流の阻滞のことですが、血液の運行が円滑でない状態を言う場合もありますし、円滑性を欠いた結果としての滞留した血液そのものを指して言う場合もあります。

 

最も単純な例としては、打撲傷を負って皮下に血塊が出来る場合がありますが、これも瘀血の一種です。 しかし問題はこんな単純な話ではありません。

 

前回「怪病多痰」ということを言いましたが、瘀血にはこんな言葉はありませんが、内容的には同じような感じがありますね。

 

最近よく血液ドロドロとかサラサラなどという表現を目にしますが、これは前回の痰が血中に溜まった状態と考えることが出来、血流の円滑さが失われて、瘀血を形成する重要な原因の一つです。

 

この辺は最近西洋医学の世界でも関心が寄せられており、ドロドロサラサラの正体が科学的にかなり解明されて来ているようです。

 

MC―FANという装置を使って、赤血球がやっと通るくらいの微細なスリットに血液を流し、その流れの様子を画像で観察するというものです。

 

その画像をみると、血球の被膜が柔軟な状態であれば抵抗無く変形してスリットを楽々通過するのに対して、被膜が柔軟性を欠いていたり、粘着性が強かったりすると容易にスリットを通過することが出来ず、血球が集まってごてごてとそこで凝集状態になってしまうようです。  

 

つまり(駄洒落ではないですよ)瘀血になってしまっているわけです。

 

その辺を絵入りで分かりやすく解説した本があるので、紹介しておきます。

「血液サラサラ生活のすすめ」(栗原毅 小学館)

この著者は東京女子医科大学のドクターですが、その他いくつかの大学医学部も同様な装置を使ってドロドロサラサラの解明に取り組んでいるようです。

 

血液ドロドラの原因は色々ありますが、なかでも食生活が大切のようでサラサラのためのお奨め食品もこの本に紹介されていますので、一読をお勧めします。

 

ところで瘀血の原因ですが、血液ドロドロ(つまり血中の痰)以外にもいくつか重要なものが有るのですが、その辺については西洋医学はほとんど手がついていないようです。

 

東洋医学では、血液の運行は気の働きであると考えています。

 

とすれば、この気の働きが不調になれば、血液の順調な運行が維持できなくなって、瘀血が起こってくるということになります。

 

血液ドロドロというのは血液そのものの状態を言ってるわけですが、気の働きというのは、血液を流すシステムの問題であるということが出来ます。

 

それでは、そのシステムであるところの気の働きの不調とはどんな状態でしょうか。

 

一つは気虚といわれる状態です。

 

これは、生命活動を推進するための気が不足している状態で、血液を運行させるための動力不足の状態と言って良いでしょう。 血液をを運行させる主担当は心でありますから、直接的には心の精気不足ということになりますが、やはり臓腑全体の精気不足が根底にあるということが出来ると思います。  

 

更にこの状態が進行して陽虚という状態になると、体をあたためる機能が不調になり、血液そのものが凝集しやすくなって、益々いっそう瘀血が進行することになります。   

 

更にもう一つは気滞といわれる状態です。

 

これは体内の気の巡行が何らかの原因で阻害され、のびのびと巡らなくなった状態です。 つまり気そのものが不足しているわけではないのですが、気の巡りが阻害されているわけですから、やはり気の働きは不調になるということです。  

 

「その6」で 

「東洋医学における“肝”とは何か、一言で言うと “全身の気をのびのびと、滞りなくめぐらす機能”を言います。 これは肝の疏泄(そせつ)機能といって、生命活動を健康に維持するにはきわめて大切な機能です。“怒”が過ぎるとこの疏泄機能が阻害されるわけで、いろいろな病気の原因になります云々」 

と書きましたが、全身の気をのびのびと巡らす機能が阻害されるとは、まさに気滞のことを言っておるわけです。

 

このような気虚や気滞という状態になると、たとえ血液はサラサラでも、順調な運行が維持できなくなって瘀血がおこるということになります。

 

さて、問題はこの瘀血という状態がどんな病気の原因となるかということですね。 

 

大きく括って言えば、各種の痛み、腫瘤、血流障害などが典型的な疾病です。

 

痛みには色々な痛みが含まれますが、その性質は刺痛といって刺すような痛みで、且つ痛みの部位が固定して移動せず、病歴が比較的長いなどの特徴があります。  ある種の頭痛、肩の痛み、腰痛、膝痛、その他諸々のしつこい痛みにはこの瘀血によると思われるものが案外多いですね。 

 

そして病院の検査では特に原因が特定出来ない場合も多いようで、当人にとっては憂鬱ですよね。

 

NHKの午後の番組で電話による健康相談を行っていますが 「病院の検査ではどこも悪いところは無い言われたが、痛みがひどくて・・」 という感じの訴えがあって、それに対して医師が一生懸命相談に乗っていますが、こんなやり取りを聞いていると、中医学の治療を受ければいいのになー、と思うことが再々ありますねー、また我田引水になってしまいましたが。

 

次ぎの腫瘤ですが、これも色々なものがありますが、ある種の悪性の物は癌ですね。 良性のものでも例えば子宮筋腫などはやはり瘀血が原因となっているものが多いのではないかと思います。

 

血流障害は瘀血の概念からして容易に想像できる疾病ですね。 動脈硬化、高血圧、脳血管障害(脳卒中など)、心血管障害(狭心症や心筋梗塞など)がこの範疇に含まれるでしょう。

 

瘀血というものの概念は大体以上のとおりです。 

 

痰飲と瘀血は長い生活習慣の結果形作られるものですが、逆にいえば生活習慣が適正であれば避けることができる可能性があるものでもあります。

 

そして、それらが作られる原因は「その6」で述べた内因、不内外因につきるわけであり、特別なことは何もないわけです。

 

ただ、我々の年代の人間は多かれ少なかれこれらの病理産物を体内にもっている、と言うことも事実のようです。 

 

願わくば現状より進むことのないように、さらに出来ることならば少しでも良い状態になるように、気をつけたいものです(自分に言い聞かせている感じですね)。

 

「その6」「その7」「その8」と生活習慣病について、思いつくままに書いてみました。 

 

とりとめのない話になってしまいましたが、東洋医学にはもともと「未病」という言葉があり、生活習慣病またはその予備軍対策にはかなり豊富な内容を持っているんだなーということを、改めて認識させられました。

 

取敢えずこのシリーズはこれでお終いにしますが、少しでも諸兄の参考になれば幸いです。