「東洋医学よもやま話」 その7

北川洋三

 

前回の「東洋医学よもやま話」その6で、生活習慣病を東洋医学ではどう見るか、について思いつくままに書いて、話途中で終わってしまいました。

今回は、このテーマを語る上でその本丸であり、且つ最も曲者であると思われる“痰飲(たんいん)”と“瘀血(おけつ)”について書いてみようと思います。

痰飲といい瘀血といい、あまり聴き慣れない言葉だろうとおもいますが、両方とも病理産物と言われるものなんです。

つまり、長い間にその生活習慣の結果、体に溜まってしまった余分なもの、健康な体にとっては本来あって欲しくない物です。

これらは生活習慣の結果溜まったものであるので、これら自体が病態とも言えるのですが、これらが原因となって色々な病を引き起こすので、その意味では病因でもあるわけです。

まず痰飲ですが、これは人体が摂取した水湿が順調に代謝されれば問題はないのですが、何らかの原因でこれが不調になった結果、人体に溜まったもの、つまりそのようにして溜まった病理産物をいいます。

そして痰飲は痰と飲に分けられ、粘稠なものを痰、水様のものを飲と言ってます。 

水様のものである飲は、要は体に溜まった水と考えれば良いわけで、例えば皮下に溜まれば浮腫となるわけで、つまりむくみの類は典型的な飲ですね。 

さらに、胸に溜まれば呼吸時の痛みの原因になるし、腹に溜まればごろごろと鳴る腹鳴や腹が張った感じ(膨満感)の原因になるといった具合です。

一方痰ですが、古代以来この痰の正体を見極めるにはよほど苦労したと見えて、原因不明の病はこの痰から生ずるとして「怪病多痰」などといって、諸悪の根源のような扱いをしていますね。

痰には有形の痰と無形の痰があって、有形の痰とは、気道から喀出されるいわゆる痰で、これは良く分かりますよね。

問題は無形の痰と言われるやつで、これは臓腑・経絡中に溜まった痰であると説明されています。

痰飲は水湿の代謝不調による病理産物といわれていますが、この無形の痰は単に字句どおり水湿が変化したものと考えると理解できないですね。

何らかの有機質なものと考えたほうが妥当だと思うのですが、その辺の明確な説明はあまり見当たらないようです。もっとも有機だ無機だ等とそんなことに拘るのは昔の頭が残っているからなのでしょうかね。 

したがってその辺は小生の独断と偏見がかなり入ってくるのですが、まあ「よもやま話」なので気楽に行きましょう。

有機質なもの、つまりイメージとしては脂質、糖質、アミノ酸類あるいはそれらの派生物が溜まったものが痰であると思うのです。

先に「無形の痰は臓腑経絡にたまった痰」と言いましたが、このように考えると臓腑に溜まった痰とは内臓脂肪の類であり、経絡つまり気血の通路に溜まった痰とは血中脂質とか血糖とか尿酸とかその類であると解釈しても良いのではないかと思うわけです。

このように解釈すると、まさに生活習慣病の原因として、この痰は俄然具体性をおびてくるんですねー。

関連する病名としてすぐ頭に浮かぶのは、脂肪肝による肝機能障害、高脂血症(高コレステロール)、糖尿病、痛風などの関節の痛みなどなどです。 

更に高脂血症が高血圧や各種の血流障害の原因であることを考えると、まさに生活習慣病のオンパレードといったところですね。 

そして血液中の痰はこの後に話すつもりの瘀血の原因になり、さらに諸々の病を引き起こす元になるわけで、古代の人が「怪病多痰」と言ったのもむべなるかな、という感じですね。

それではこの痰飲を防ぐにはどうすれば良いか。

ここまでの話でお分かりかと思いますが、これを防ぐ特効薬的な方法は無いですね、なにせ生活習慣ですから。「よもやま話」その6で述べた病因で話は尽きていると思いますね。

つまりストレスを溜めないように工夫する、飲食の不摂生を避ける、労倦を適正な範囲に保つなど実に平凡はことを日常倦まずたゆまず実行して生活する、

これ以外に無いと思います。

ただそれで話を終わったのでは、木で鼻を括ったような感じなので、もう少し突っ込んでみようと思います。

水湿(有機質も包含した意味で)の代謝は各種の器官の協力で為されるわけですが、特にこの機能にとって大事なのは、東洋医学の表現で言えば「脾」といわれる臓腑の働きです。西洋医学的に表現すれば「消化吸収」を担当する臓器、すなわち膵臓、肝臓、胃、胆嚢、小腸などの協力体制と考えることが出来るでしょう。

この消化吸収機能を正常に保つことが第一の要諦であろうと思います。

しかし一方、仮に消化吸収機能が正常であっても、食生活が適正範囲を超えた状態でそれが長期間、習慣的に続けばやはり痰を形成するこになろうかと思います。臨床の観察から言えることは、長いこと習慣的に酒を飲み続けた体は大体痰が溜まっていることが多いですね、自分を含んでいますがね。

それからもう一つ話しておきたいことは、この痰飲そのものを診断し、治療することは西洋医学では無理で、東洋医学の領域であると言うことです。

糖尿病とか高血圧とか具体的に発病したものに対してその症状を抑える治療としては、西洋医学は強力なものを持ってはいますが…。

さて、痰飲を話しているときりが無いのでこの辺で瘀血に話を移そうかと思うのですが、その話を始めるとまた結構長くなりそうなので、次回に譲った方が良さそうですね。

人生も中年をすぎると、ほとんどの人が多かれ少なかれ痰飲または瘀血(これは次回に話しますが)またはその両方を持った体質になっているようです。生活習慣病患者またはその予備軍といったところで、これはなんとかしたいですねー。

「お前の言っていることは分かったが、60年以上生きて作った体質はもうしょうがないよ」などというセリフが聞こえてきそうな感じですが、そこは簡単にそう諦めないでいただきたいところですね。

先にも言ったように特効薬的な治療法は無いですが、東洋医学にはその診断法も治療法も有るのですから。

なにやら最後は我田引水のような感じになりましたが、今回はこの辺で。