「東洋医学よもやま話」 その5

北川洋三

「よもやま話」その4で「東京中医鍼灸センター(浅川鍼灸治療院)」を神田猿楽町に開設したことをお知らせしました。 半年を経過し、大体の様子も把握できましたのでこの度ホームページを立ち上げました。 

URLは http://chuishinkyu.web.infoseek.co.jp/ です。

このホームページを作るにあたっては、遠藤興輝君におおいにお世話になりました、というよりほとんど遠藤君が作ってくれたものです。 今後の更新その他のフォローも彼にお願い、ということで真に申し訳なくもありがたい丸投げスタイルです。

そんなわけで、一度覗いてみてください。

さて、その4まで思いつくままに東洋医学なるものを多少独断も入れて話してきました。今回は、これまで何度も出てきた「経絡」と「経穴」というものについて、全体像に一度触れてみたいと思います。

「経絡」の定義は、医道の日本社の「鍼灸医学辞典」によれば「東洋医学における物理療法の基本体系で、鍼灸治療に必要な皮膚上の特定部位である経穴を機能的に結ぶ連絡路系をいう。 この言葉は....、多くは経脈と記載されている。」 とあります。 そこで、同辞典で「経脈」を引いてみると「気血のめぐる通路で云々」と記載されています。

ここで「気血」とありますが、「気」についてはこれまでかなり詳しく触れましたのでいいのですが、「血」とは何かということです。

「血」は血液そのものと考えてよいのですが、中医学では「気」と「血」は相互に転換し得るもので、はたらきを分けながら同一のものと考えています。

経絡の走行流路はかなり血管を意識(結果的に、ですが)したものでして、事実経穴(ツボ)には動脈拍動を触れる部分にとるものがかなりあります。

たとえば喉頭隆起(通称喉仏)の外側5cmくらいのところにドキンドキンと触れるところは「人迎(じんげい)」という経穴ですし、また、通常脈を取るのに使う手首の部位は「経渠(けいきょ)」という経穴です。

血管で思い出したのでちょっと横道にそれますが、東京国際フォーラムで「人体の不思議展」という催し物をやっています。 これは実際の人体(つまり本物)の解剖体を展示しているものでなかなか迫力があります。 その中で全身の血管に樹脂を流し込んで固めて後、周囲の組織を溶かして除いた血管モデルとでも言うものを展示しています。

全身の血管を全部つなぎ合わせると地球2周半になるとのことで、その毛細血管群を目の当たりに見ることが出来ます。 東洋医学では人体を小宇宙と見る、とよく言いますが全くその通りだなーと思います。

会期は94日から来年の116日まで、入場料1500円(65歳以上750円)で、これは一見をお勧めします。

さて本論にもどりますが、歴史的に経絡と経穴とどちらが早く発見されたかというと、それは経穴のほうであるといわれています。 

臓腑に病変があるときに何らかの反応が現れる体表上の点が認識され、またその点を刺激することによって病変が改善されることが認識され、長い歴史の試行錯誤の過程で淘汰されて、これは間違いないとして残ったものが経穴であると思われます。

そして、そのようにして認識された点と点Bが類似の作用を有することが、これも長い試行錯誤の末に認識された時、点Aと点Bをつなぐ経路として経絡というものが形作られていったものと思われます。

経穴といい経絡といいあくまで生きた人体の反応を体系化したもので、その意味では東洋医学は経験医学であるということが出来ます。

一方西洋医学は精緻な解剖学の上に成り立っており、普遍的な観察を通した科学の産物であるということが出来ます。

しかし、いずれも人体を対象としたものであることに変わりはなく、切り口が違ってもそんなにかけ離れたものになるわけがなくて、経絡が結果的にではありますが、血管の存在と密接に関連していてもなんら不思議は無いわけです。

結果的に密接に関連しているといえば、経絡は神経の走行ともかなり関連しています。

たとえば坐骨神経は足太陽膀胱経という経絡の走行と一部ではほぼ一致していますし、他にも神経と経絡の経路がほぼ一致しているところが何箇所かあります。

つまるところ経絡とは、血管とか神経とか、あるいはもろもろの化学物質の伝播経路とか何やかや人体の作用をつかさどるものを全部包括したところの、人体の反応の点をつなぎ合わせたものと表現することが出来ると思います。

従って、「よもやま話」その2でも触れましたが、人体を解剖して経絡を見せてくれといわれてもそんなものは確認できません。 経絡はくどいようですが“生きた人間の反応点をつないだもの”であるわけですから。

発生の過程が、自覚的または他覚的な感覚によっているわけで、科学的ではない、といわれればその通りと思います。

しかし小生が思うに、むしろ経絡を説明するのに科学という手段は十分ではない、といったほうが当たっているような気がします。 

しかし科学はこれからも進化するでしょうから、いつの日か経絡を説明するに足るものに変身するかもしれないなー、と小生は想像するのですが、どうでしょうかね。

少し具体論に入りますが、経絡には幹線経路として十二正経といわれるものと、奇経八脈といわれるものがあります。

十二正経はそれぞれに属する経穴をもっており、一方奇経八脈の方は任脈と督脈という2本の経脈はそれぞれ属する経穴を持っていますが、残りの6本の経脈は独自の経穴は持っていません。 

従って独自の経穴を持っているものは十二正経と任脈、督脈の計14本であり、これらをまとめて十四経といいます。

任脈と督脈は体の正中を通る経絡で、任脈は体の前面を会陰から臍を通って口中まで、一方督脈は会陰から肛門を経て脊柱に沿って上り、頭の真ん中を通って前面にまわり、口中にいたるものです。

臍そのものは神闕(しんけつ)という経穴で任脈の上にあり、その2で触れましたが頭のてっぺんは百会(ひゃくえ)という経穴で督脈の上にあります。

十二正経の流注(経絡の走行経路のことで、“るちゅう”といいます)はいちいち説明するのはとても煩雑なので割愛します。

ただ、手指や足指の爪の付け根が経絡の始点や終点になっていることが多いのですが、これは非常に興味深いことです。

たとえば、手の小指の爪の外側の付け根は「手太陽小腸経」という経絡の始点で少沢(しょうたく)という経穴であり、内側の爪の付け根は「手少陰心経」という経絡の終点で少衝(しょうしょう)という経穴です。

また一方、足の親指の爪の外側の付け根は「足厥陰(けついん)肝経」という経絡の始点で大敦(だいとん)という経穴であり、内側の付け根は「足太陰脾経」という経絡の始点で隠白(いんぱく)という経穴です。

つまり、人体のいろいろな反応にとって爪の付け根が非常に重要な意味を持っているということです。 

爪の付け根の経穴は井穴(せいけつ)と総称され、鍼灸治療では頭に血が上ってのぼせがひどい状態や、急性症状で熱が高い状態などの治療にはこの井穴を使います。

爪の付け根を両側からギューと圧迫すると一種独特な感覚がありますが、ここを指圧すると体調を整える効果があります。

大体は交感神経の亢進を抑えて副交感神経優位な状態をつくるようで、心身をリラックスさせるのに効果があるようです。

最近、井穴刺激の効果を西洋医学の立場から、解明した本が出たので紹介しておきます。

「実践“免疫革命”爪もみ療法」 福田稔 安保徹共著  講談社

という本です。

先に「科学が経絡を説明するには十分な手段とはいえない」といいましたが、この福田稔氏と安保徹氏は西洋医学の医師であり、西洋医学の世界から東洋医学を解明しようといろいろなトライをして実績をあげている方です。  興味ある方は一読をお勧めします。

よもやま話が長くなったので、今日はこの辺で。

皆さんのご健康を祈ります。