中欧オペラ紀行(2)

金子忠

―ブダペスト その2―...ブダペスト国立歌劇場と「タンホイザー」―

実は5年位前に一度ブダペストには来たことがあって、そのときはエルケル劇場というここでは2番手のオペラハウスで「マノンレスコー」を見た。2番手という言い方は失礼で、より市民的というか、どちらかといえば庶民的な劇場であった。

歌手と観客がすごく近くて(心情的に)、特定の歌手に対する熱狂的なファンがいて、カーテンコールでは大変な盛り上がり方であった。まるで歌謡ショーのフィナーレのようであった。こういうこともあるのかと面白かった。

国立歌劇場は、客層がはっきり違うようであった。客はみな、「私達、ここの上流階級です」といった顔をしている。我々のような観光客も多いらしい。

建物も、こちらは堂々としてまるで王宮の如くである。パリのオペラ座を模して作られた、という話を聞いたことがある。あれより規模が多少小さいだけで、外観といい、内部の装飾といい、豪華である。凄い。(客席数1,800)

見ていると国の威信をかけて建てました、といった雰囲気が伝わってくる。

ヨーロッパのオペラハウスはみなそうである。歴史的に、もとは王侯貴族の社交の場、娯楽の場だったので、自らの権威の象徴として、カネにいとめをつけずに作ったものなのであろう。

ロビーにエルケルなる人物の胸像があった。あのエルケル劇場はこの人にちなんで作られたらしい。よほどオペラに功績があった人のようだ。(調べたところ、この歌劇場の初代音楽監督だったようだ)
この日の「タンホイザー」は面白かった。歌手陣に知った名前の人は一人もいなかったが、私にとってはみなそれなりに歌も素晴らしかったし演出も良かった。

このオペラはドイツ中世の伝説の騎士物語なので、物々しいいでたちの騎士がいっぱい出てくる。それがみな立派な体躯と声で朗々と歌うから、それだけで感激してしまう。

以前にベルリンでこれを見たことがあるが、その時は主役のタンホイザーがズングリムックリなのに対して相手のエリザベートが大きな人で見下ろされてしまう有様で、同情をしてしまったことがある。

有名な歌合戦の場がよかった。歌合戦を始めるファンファーレが舞台ではなく、客席(ボックス席の上の方)から鳴り響いて、これだけでジーンときてしまった。

エリザベートを歌ったソプラノ歌手はまずまずの美人で、声量も豊か、ふくよかな体型の人で楽しめた。(私も結構ミーハーなのだ)。音楽の専門的なことはよくわからないが、私にとっては上等上等、大いに満足した。

この辺り―中欧の大きな都市にあるオペラハウスはみな水準が高いと思う。引率のO先生の話では、近くにウィーン国立歌劇場という世界最高のオペラハウスがあるので、歌っている人達は何とかここでいい評価を得ていつかウィーンにデビューしたい、という夢を皆が持っているのだという。そういう目標があるのでみな一生懸命なのだと。

そういえば、今世界的に活躍しているソプラノのアンドレア・ロストとかエヴァ・マルトンなどはもとはここで歌っていて世界に出て行ったという。競争も激しいらしい。

.....つづく