スイス・パリ オペラツァー(7) パリ その2

金子忠

  1. 2.ヴェルディ作曲「ルイザ・ミラー」 (2月26日 オペラ・バスティーユ)

ヴェルディ中期の作品であるが、中期の3大傑作と言われる「リゴレット」「椿姫」「トロバトーレ」などの直前(2,3年前)に作曲されたものである。

 

これらにに比べると「ルイザ・ミラー」は知名度、評価の点ででいまひとつである。

 

私も全曲を生で聴くのは今回が初めてでどちらかと言うとあまり期待はしていなかった。

それより、今回のお目当ては歌手にあって、主人公のロドルフォを歌うラモン・ヴァルガスがその人なのであった。

 

彼はメキシコ出身の世界的に有名な若手のテノールである。いわゆるポスト3大テノールの有力な候補者の一人だ。
 

まずオペラを見終わった感想としては、全体として非常に面白かった。というより感動した。さすがヴェルディだと思った。

今回のツァーではスイスでマイナーな、しかも喜劇的な軽いものを見てきたので久しぶりにヴェルディの重厚なオペラの世界に入って、これぞオペラだ、と思ったことだった。

 

ストーリーは省略するが、人間の業としかいえない親子の葛藤、男女の想い、喜びと憎しみ、等を歌に織り込んで人の世の喜びとはかなさ、が延々と歌われる。


第一幕の舞台の背景
物語の設定は17世紀、スイス・チロル地方

 

リゴレットなどに比べて完成度ではやや欠けると言われているが、ヴェルディならではの人間性への深い洞察を感じた。今回のツァーで初めて本格的なオペラに出会ったという満足感で一杯になった。

お目当てのラモン・ヴァルガスは出だしがイマイチでどうかな、というところがあったが、幕が進むにつれて調子が上がってきてなるほどこれが頂点に立つ歌手の歌だと思った。

一流の歌手でも歌いだしは大抵よくない。どうかな、これがあの歌手?と思うのだが、ドラマの進行につれて登場人物になりきって熱が入ってくると本領を発揮する人が多い。

 

昨年ジェノヴァで見たサルバトーレ・リチートラもそうだった。 生の舞台につきものの危うさであり、緊張感であり、楽しみ?でもある。

余計なことだが、4月に福岡の映画館でMETライブビューイングの上映があり、「ラ・ボエーム」を見たのだが、ここにヴァルガスが出ていた。4月6日の収録なので、彼はパリの「ルイザ・ミラー」でロドルフォを歌った後、ニューヨークに行ってメトロポリタンのボエームのロドルフォで出ていたのである。映像ではあるがなないか懐かしく嬉しい”再会”であった。

ヴァルガスがこの両方のオペラで同じ「ロドルフォ」役ででていたのは単なる偶然ではあるが、これも何かの因縁かと思ったのだった。

他の歌手は名前を知らず、どんな経歴の歌手かもわからなかったが、みな一流のレベルの歌を聞かせてくれたように思う。素人の私の耳にはさすがパリのオペラ、と感心させられるものがあった。

今までオーストリアやドイツといった東の方のオペラハウスばかりで舞台を見て感激してきたが、パリもやっぱり凄いのだ、とあらためてヨーロッパのオペラの幅の広さを実感した。(当たり前である。パリもオペラの本場の一つなのだった。)

忘れないように主な配役を書いてみると

 

ワルター

ロドルフォ

ルイザ

ミラー

フェデリカ

ヴルム

: Ildar Abdrazakov*

: Ramon Vargas

: Ana Maria Martinez

: Paolo Gavanelli (当日代役出場)

: Maria Jose Montiel*

: Kwangchul Youn

    *印は、パリオペラ座デビュー とある

 

悪役のヴルムを歌った人は韓国人らしかったが堂々とした体格で声も素晴らしかった。

 

その他では、ルイザを歌ったソプラノも清純な乙女役がはまってうまく演じていた。


ミラー役のGavanelliは当日の急遽の代役だったがこの人がまた良かった。ミラーは大事な脇役なのだがピンチヒッターとはとても思えない歌いぶりで大きな拍手をもらっていた。

 

苦悩する父親を慈愛に満ちた歌と動きで感動的に演じていたと思う。

フェデリカ役は当初の配役ではマリーナ・ドマシェンコという今売り出し中の歌手が出る予定で楽しみにしていたのだったが、かなり前から別の人に変ってしまった。 これはちょっと残念だった。


なお、指揮はMassimo Zanetti 。どこかで聞いたような気がする名前であるが思い出せない。
 

このオペラのカーテンコール  
赤いマフラー?姿がラモン ヴァルガス(ロドルフォ)その右がルイザ、更にその右がミラー
左から二人目白い姿がフェデリカ。