スイス・パリ オペラツァー(4) ベルン

金子忠

ベルンはスイスの首都であるが人口12.7万と一国の首都としては非常に小ぶりである。しかしそれは”山椒は小粒でも”というべきもので、非常に洗練されたはちきれんばかりの魅力にあふれた古都である。

”ベルンの旧市街”は世界文化遺産に登録されている。またルツェルンとともにベルナーアルプスへの入口でもあり豊かな自然と観光資源には事欠かない。

bullet ベルンの旧市街

ヨーロッパの歴史ある町には必ず旧市街というものが残っている。今回のスイスでもチューリッヒにしてもルツェルンにしてもいわゆる中世の面影を残す町並みと言われる一角が残っていて旅行者の眼を楽しませてくれる。

しかし、このベルンの旧市街は世界文化遺産に登録されているだけあって範囲が広大なことと景観がよく保存されている点で格別であった。

スイスは永世中立国なので戦災(特に空爆)を受けなかったことが幸いしたらしい。それ以上にここに住む人々の景観保存への熱い思い入れが背後にあるのではないかと感じた。

上の写真はバラ公園と呼ばれる高台から見た光景であるが、赤茶色の屋根と淡いクリーム色の壁の建物で統一された古い家々が延々と連なっている。

首都であるから中には新しい建物もあるはずだが、古いものと新しいものが混然一体となって整然と並び建つこの町の景観は確かに素晴らしい。息を呑むような美しい景色だった。

ひときわ目立って高く聳える塔は「大聖堂」の塔で100mの高さがある。町のどこからも見えて存在感十分だが、上部を修復工事中で一部覆いがかけられていたのが残念だった。

この町はアーレ川がU字形に大きく蛇行している所の内側につくられており、三方を川に囲まれている。この写真はアーレ川にかかる橋から撮ったが、この川の水は青緑色をしており非常にきれいであった。

ここに見える建物は比較的新しいアパート群と思われるが整然としていて見た眼にも快い。

旧市街の中心地にある時計台。

観光名所である。

13世紀に建てられて当時は町の西の門だったそうだ。

塔の下部がたしかにそれを窺わせる造りになっている。

この時計は仕掛け時計で毎定時に鐘の音とともに鳥や人形がぎこちなく様々な動作をする。

チェコのプラハにも同じような名物時計があったことを思い出した。

この塔を挟んで東西が旧市街のメインストリートになっている。
 

ちょうど我々がここにいた時、笛太鼓の音が聞こえてきていわば(大人の)鼓笛隊が通ったが全員スーツ姿で奇妙であった。

聞けば何日か前この町で古くから伝わるお祭のパレードがあり、その時は古式豊かな中世の衣装で練り歩いたのだそうだ。

この人たちはその名残でパレードが祭りの当日だけで終わってしまうのが惜しくていまだに毎日こんな風にパレードを続けているのだという。

皆一生懸命で祭りの余韻を大いに楽しんでいるようだった。全部で100人近くいたように思う。それにしても祭りの本番を見たかったな。

アインシュタインハウスというのがあった。かのアインシュタインはチューリッヒの工科大学を卒業した後、特許局の役人になって6年間こベルンに住んでいた。

家は旧市街のメインストリートに面している。あの大学者がなんで役人に?なんでこんな所に?と驚いたが、この家に住んでいた時にあの「特殊相対性理論」など重要論文を書いたと聞いて心底びっくりした。

しかし世紀の大天才科学者と中世の街並みとは全く相容れない雰囲気であった。

上の写真は近代的な街並みに見えるが、これが実は中世の面影を今に伝える旧市街のメインストリート風景である。

建物の下がすべてアーケードになっているのがこの街並みの特徴である。この日は日曜日とあって店は殆ど閉まっており人通りも少なかったが、ウィンドショッピングだけでも結構楽しめそうであった。

ただ一歩裏通りに足を踏み入れるとそこには曲がりくねった狭い路地があり、これはまた別の中世の雰囲気を醸し出していた。他の都市ではこのタイプが多い。写真のような大通りがそのまま残っているのは珍しいのではないかと思う。

bullet ベルン市立劇場
ベルンでのオペラは市立劇場でのマスネーの「サンドリオン」であった。

市立劇場は歌劇場とは呼ばれていないところからみると、オペラだけでなく芝居やコンサートなどいろいろな催し物に使われているようであった。

しかし中に入ってみるとスケールは小さいながらも馬蹄形の桟敷席があり、これは明らかにオペラハウスの造りであって非常にいい雰囲気をもった劇場であった。

カメラを忘れたため内部の写真がないので残念である。

bullet マスネーの「サンドリオン」

マスネーのオペラは「マノン」と「ウェルテル」が有名であるが、「サンドリオン」は全くのマイナーなオペラでほとんど名前も聞いたことがない。シンデレラの物語である、というだけが唯一の予備知識であった。したがって歌詞の言葉は分からなかったが筋立ては理解できた。

ただ、この夜の公演はあまり感心しなかった。歌手もオーケストラもいまいち、という感じ(生意気な言い方だが)でマスネーらしいきれいな旋律はよかったが、感激するには至らなかった。申し訳ないが、時差の影響もあって3分の1くらいは眠っていたような気がする。だから演奏が感心しなかった、などと言うのは本当はおこがましいのであるが・・・

bullet アフターオペラの飲み会

比較的早くオペラが終わったので、ビールでも飲もうと言うことになり10人ほどで古い街並みの中の飲み屋をさがした。ところが日曜日で店が殆ど閉まっている。

諦めかけていたときにメンバーの1人があそこはどうか、と言い出した。何と劇場のすぐ隣の建物の地下がワインケラーであった。

昔は穀物の貯蔵庫だったというこの店はかなり広く、雰囲気たっぷりでアフターオペラのひと時を大いに楽しんだ。照明はローソクの灯りだけだったような気がする。ここも写真がないのが非常に残念である。

ベルンは私にとってはオペラでは大きな収穫はなかったが、記憶に残っているのは何と言っても世界遺産の旧市街の風景である。それとアーレ川の橋の上から遠くに見えたアルプスの山々の光景が眼に焼きついている。

(上の写真の左より遠くに見えるのがユングフラウ、アイガー、メンヒの”ユングフラウ3山”。ルツェルンからも見えたがベルンの方が少しアルプスに近い)