スイス・パリ オペラツァー(2) チューリッヒ

金子忠

チューリッヒと聞いて人は一番に何を思い浮かべるのだろうか。
私はといえば、なんとTVで頻繁に宣伝している「保険のチューリッヒ」を真っ先に思い出してしまう程度であった。
確かにチューリッヒ生命の本社はここにあったが、それよりもチューリッヒはスイス第1の都会、スイスを代表する国際都市であり、世界的な金融の中核的存在の一つである。
紀元前1世紀のローマ時代からの歴史がある。
人口34万というと我が久留米市とほぼ同じであるが、もちろん都市としての”品格”、都市景観等の落差は大きい。
  1. FIFA本部

市内観光のバスが丘を登って行くと、何と突然FIFA(国際サッカー連盟)の本部が現れた。

私はFIFAの本部はヨーロッパのどこかにあるだろうと漠然と考えていたので、実はびっくりした。

サッカーファンの1人として胸が躍ったが、しかし、よく考えてみればここでサッカーの試合をしているわけでもなく、単なる建物であって別にどうということもない。
ただし、サッカーファンとしては一度はお参りすべき所かも・・・

丘の上の木立の中にあり、静まり返っていた。次のワールドカップが始まるとこの辺りも慌しい雰囲気になるのだろうか。

  1. チューリッヒ工科大学(ETHZurich)

正しくはスイス連邦工科大学チューリッヒ校。

現地のガイドさんの話によるとボストンにあるMITと並び称される名門工科大学ということである。

X線のレントゲンやアインシュタインもここの卒業生だそうで、ノーベル賞の受賞者は30人に達すると言われて正直驚いた。

どういう基準での人数かわからないが、ガイドさんがETHをドイツ語読みにエーテーハー、エーテーハーと何回もいうので頭に残った。ここはドイツ語圏なのである。

しかし我々がここに来たのは大学を見学するためではなく、小高い丘の上にあるため本部建物の裏の広場がチューリッヒの街の格好の展望台になっているからであった。ついでにトイレ休憩!(下の写真がここからの風景)

  1. 旧市街

ヨーロッパの古い歴史のある町には大抵「旧市街」というのがある。いわゆる中世の面影を今に伝える街並み、である。チューリッヒにもそれがあってそれほど広くはないが何とも趣のある家並みの路地がある。ここでしばらく街歩きを楽しんだ。

川沿いには市(露店)も出ていてお土産や日用品の他、ちょっとした食べ物、日本式にいえばお好み焼きのようなものを売っている。なかなか面白い。それとなく探してみたが缶ビールなどはないようだった。天気がよくてのどが乾いたのだった。

この辺りはチューリッヒの発祥の地ともいうべき場所であり、ローマ時代のサウナの跡、とかいう”遺跡”も保存されていた。

  1. チューリッヒのオペラ(1) ロッシーニの「アルジェのイタリア女」

まずがっかりしたことは、主役のイザベラで出る予定だったヴェッセリーナ・カサロヴァが病気で出演できず代役が歌ったことであった。今回のツァーのお目当ての歌手の1人だったのに・・・突然言われてもねー・・・ 下の写真が会場で配られた代役を告げるチラシである。

こういうことは時々あることではあり、カネ返せ〜と言いたいところだが仕方がない。オペラ歌手の中には、急遽代役で出てそれがきっかけで大歌手になっていくという例は結構多いのである。

この日の代役はマリアンナ・ピツォラートという人がつとめた。カサロヴァには及ばないが歌も演技もレベルは高く、十分満足した。名前は初めて聞いたがこちらでは実績のある人のようであった。

この日の座席は前から3列目中央付近という願ってもない一等席だった。指揮者から2,3m、舞台からも数m。カサロヴァをすぐ近くで見れたのに、と思うと本当に残念だった。

リンドーロを歌ったテノールが大変な美声で大きな拍手をもらっていた。ファン・ディエゴ・フローレスに似た声で高音だけでなく低音も含めて全般にきれいな声だった。もう少し声量があれば、という感があったがまだ若いのでこれからが楽しみだ。

ロッシーニのオペラは後の時代のオペレッタに近く、いつ聴いても楽しい。全体としては”カサロヴァショック”が尾をひいて大満足というわけにはいかなかったが十分に楽しめた。

チューリッヒ歌劇場は外観は端正な造りでライトアップされた夜景は美しい。内部は桟敷席をもつ伝統的な構造で、中に入ると何時もながら何ともいえぬ高揚感に包まれる。

  1. チューリッヒのオペラ(2) シューマンの「ゲノフェーファ」

「ゲノフェーファ」についてはストーリーもよく分からない上に、さらにこの夜は”恐れていた”モダンなというより奇抜な演出で戸惑ってしまった。

 

本来は中世の伝説的な騎士物語なのだが、舞台は現代であり何もかも今風である。さらに血を見せる場面が多かったり、女性のヌードが出てきたりで頭の中はすっかり混乱状態。舞台を見る限りは凡人の私には理解できなかった。

ただし、今日の指揮はかのニコラス・アーノンクールとあって客席は満員であったし、さすがにオーケストラは良かったと思う。シューマンの叙情的な旋律が随所に流れて目を閉じていればいい音楽なのであった。

 

あまり目を閉じていると眠ってしまうのでこれには限界がある。演出はアーノンクールではないのだが、彼はこのような斬新なオペラを時々やるらしいので演出には彼の意思が強く反映していたのではないかと思う。

要するに、これはオペラの玄人、というかしょっちゅうオペラを見ている人のためのオペラと考えたい。言葉の問題もあり我々には難しい。


洗面所のタブが赤い血でに満たされていたり、壁を血で塗りたくったり、ヌードが出てきたりするので、同行のご婦人の中には気分を悪くする人もいた。


こんなオペラもあるんだなァと思いながら劇場を後にした。下の写真はカーテンコールの時のもので、中央黒い服を着ているのが指揮者のアーノンクール(前列右から4人目)。歌手については全く情報がない。