北イタリアの町 ― マントヴァ

北イタリア・オペラツァー(その10)

金子忠

 

マントヴァ・・・この町の名前はオペラファンにとっては特別な響きがあります。

ヴェルディの「リゴレット」に出てくるあの好色な領主、マントヴァ公の町だからです。
 

私にとっても昔から憧れというか、いつか行ってみたい町としてずっと頭のすみに残ってきました。

この町は前回のクレモナから車で30分ほど東に行った所にあります。地図でいえばイタリア半島の付け根のちょうど真ん中あたり。

三方を湖に囲まれて特異な景観を持っています。オペラでも、終幕近くでリゴレットが瀕死のジルダを舟に乗せて漕ぎ出す場面に出てくるあの湖です。ガイドは川と言っていましたが、どう見ても湖です。

町の中心はやはりマントヴァ公の館、ドゥカーレ宮殿。(左の写真)

茶色の城壁のように見える大きな建物です。人を寄せ付けない業のようなものを感じさせます。それにしても町の大きさに対して不自然な感じがするくらいの大きさです。

部屋数500とか。長く領主ゴンサーガ家の館として使われていました。中には美術館や教会、庭園などがあるようですが、時間の関係で私達は中には入りませんでした。

この建物の前の道は石畳です。足裏に中世を感じながら歩いて行くとエルベ広場があります。(しかし、この石畳の道は歩きにくい。昔の雰囲気は感じますが、足の裏が非常に疲れます。靴も傷みそう。)

エルベ広場の周りにはサンタンドレア教会(右)、サン・ロレンツォ聖堂(下左)、ラジョーネ宮(下右)など中世そのものの雰囲気を今に伝える建物が連なっています。

特にサン・ロレンツォ聖堂は小さな円形の建物ですが、かなり古そうなレンガ作りで中世の教会建築として貴重なものだそうです。

聖堂の中は非常に狭く、なにか迫害されたキリスト教徒が密かに集まって神に祈りをささげている、というような光景を想像させます。事実はどうだったのか知りませんが.

    

ドゥカーレ宮殿のすぐ近くに「リゴレットの家」がありました(下左)。リゴレットはマントヴァ公に仕える道化ですが、勿論フィクションです。(オペラはヴィクトル・ユゴーの戯曲を翻案したものだそうです)

従って、「リゴレットの家」なるものが実在するはずがないのですが、オペラがあまりに有名になったため、観光用に古い家を「リゴレットの家」(一種の博物館)に仕立てたもののようです。小さな庭にはリゴレットの像までありました。(下右)オペラの数々の名場面が頭を過ぎりました。

    

ヴェルディ中期の傑作オペラ「リゴレット」は私も大好きなオペラです。道化というある意味での弱者の悲哀、憤り、娘への愛情を歌って見る者を感動させますが、その舞台となった町を目の当たりにして、感慨もひとしおでした。現在のマントヴァは人口5万弱、北イタリアの小さな古都でした。