マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」

北イタリア・オペラツァー(その8)

金子忠次

 

物  語

舞台は南イタリア、シチリア島。村の娘サントゥッツァは昔恋仲だったトゥリドゥに激しい思いを抱き続けているが、彼の心は同じ村に住むローラに向っている。しかしローラは彼が兵役に行っている間に馬車屋のアルフィオと結婚してしまった。兵役から帰ったトゥリッドゥはしかしローラとよりを戻して二人は密会を重ねている。
サントゥッツァはいくら思いをトゥリッドゥに告げてもに冷たくされるばかりなので、腹いせに、彼とローラとのことをアルフィオに告げ口してしまう。
アルフィオは怒ってトゥリッドゥと決闘することになる。結果、トゥリッドゥは敗れて殺されてしまう。サントゥッツァは自分の軽率な行動が愛するトゥリッドゥを死に追いやったことを悔やむが・・・


スト−リーを読むと、これは前回の「道化師」と殆ど同じ筋立てです。勿論全く別の話ですが。両方のオペラの持つ雰囲気が似ていることと、この二つのオペラがそれぞれ約1時間と短いので、一晩に二つを一緒に上演することが普通になっています。

今回の劇場はジェノヴァのカルロ・フェリーチェ劇場、先に紹介したように新しい劇場ですが、いい雰囲気を持っています。

 

そして主役のトゥリッドゥは前回の「道化師」に引き続いてあのサルバトーレ・リチートラ(左)です。短いオペラとはいえ、二つのオペラの主役を連続して演ずるのは大変です。

「道化師」のカニオと同様、直情的ですが母親思いのトゥリッドゥをリチートラは見事に演じていました。サントゥッツァとの二重唱も気迫あふれる歌いぶりで感動しました。ドミンゴのような大歌手に成長してほしいものです。

一方のサントゥッツァを歌ったのはスーザン・ネヴス(右)。ニューヨーク生まれのアメリカ人。名前を聞くのは初めてです。この人はとにかく体格が凄い。横綱級です。
 

その分声量があって、リチートラに全く引けをとらず熱演しました。安定した歌いぶりで安心して聞ける歌手です。

私の好きなフィオレンツァ・コッソットが当時この役を得意にしていましたが、この人が同じ系統の声です。勿論コッソットには及びませんが、この人のように同系統の質の声を聞くと、過去に聞いて記憶の中にある名唱熱唱がダブって現実以上にいい声に聞こえるから不思議です。

もともと私はこのオペラが大好きでお気に入りのオペラベスト10に入ります。とにかく親しみやすく美しい旋律にあふれています。特にトゥリッドゥとサントゥッツァの二重唱は情熱的で魅力あふれる旋律で何度聞いても感動させてくれます。合唱もいい歌が随所に出てきます。

オペラを聞く(見る)楽しさをいつも味わうことのできるオペラです。この日も歌手の声の饗宴に心から酔いました。(左は舞台の絵コンテ 手前左がサントゥッツァ、右がトゥリッドゥの母親 復活祭のミサのためなのか、女性の衣装は黒が基調で暗い)


このオペラは作曲者のマスカーニ(右)が楽譜出版社の懸賞に応募して1位を取ったものだそうで、その時の応募の条件が1幕ものという制約があったため1時間という短いオペラになったとのことです。
 

実は「道化師」も同じ懸賞の応募作品の一つだそうでこちらは2番だったとか。いろいろ因縁があるものです。

なお、題名の「カヴァレリア・ルスティカーナ」というのは「田舎の騎士道」という意味だそうですが、ストーリーからして何が騎士道かと思わざるを得ません。妻に浮気されて頭にきて決闘するのが騎士道? なにか別の意味が隠されているのかも知れません。