レオンカヴァルロの「道化師」

北イタリア・オペラツァー(その7)

金子忠

物語

旅回りの道化芝居一座の座長カニオは、妻ネッダの浮気が悩みの種である。一座のメンバーのトニオはネッダに恋しているが冷たくあしらわれたのを根にもって、ネッダの浮気の現場をつかみカニオに知らせる。カニオはちょうど今一座が演じている芝居の中身と現実が錯綜して芝居中に頭に血が上ってしまい、ネッダと浮気の相手のシルヴィオを見物人の前で刺し殺してしまう。 (劇中劇の形になっている)

オペラは一般にドラマティックなストーリーのものが多いのですが、この「道化師」は人間の抑えることのできない激情がもたらす悲劇をテーマにした、特別にドラマティックなオペラです。

昔、1960年代にNHKの招聘したイタリア歌劇団で来日したマリオ・デル・モナコが主役のカニオで出演し、伝説的な名唱として今に語り伝えられていますが、今回このカニオで出演したサルバトーレ・リチートラ(写真)も私にとってはデル・モナコに劣らぬ名唱を聞かせてくれたように思います。(格の違いはありますが生演奏の迫力がそう感じさせたのでしょう)

聞かせどころの「衣装をつけろ」はまさに熱唱でした。

先にファン・ディエゴ・フローレスについて、ポスト3大テノールの有力候補だと書きましたが、このサルバトーレ・リチートラもその有力候補の一人です。

フローレスは超高音の声の輝きを売り物にしていますが、リチートラは少し幅の広い声域を持ったドラマティック・テノールで発声に無理がなく長続きしそうです。

他の歌手では、トニオを歌ったアルベルト・ガザーレ(右)が歌唱・演技ともに素晴らしく感激しました。最初にトニオが前口上を述べる場面がありますが、これを聞いただけで何か期待させるものを感じました。

少しひねくれた危うさのある男を見事に演じます。私は彼の名前を全く知らなかったので、新人を発掘したような気分でいたところ、後でよく調べたらこの人はもうかなり実績のある中堅というか一流に近い人であることがわかりました。

今年来日してリゴレットを歌う予定があるようです。リゴレットは「道化師」のトニオと共通した性格の役柄で彼には適役だと思います。是非聞きに行きたいものです。福岡まで来てくれたらいいのですが。

女性陣ではネッダを歌ったスヴェトラ・ヴァッシレヴァ?(左の写真)という人が若々しい美声でその点はよかったのですが、その清純な感じがネッダの少し激情的なクセのある女性とはやや性格的に合わないところがあり、私にはミスマッチのように思えました。

ブルガリア人です。「トゥーランドット」のリュウのような清純な役柄だったら素晴らしい歌を聞かせてくれるのではないでしょうか。

 オペラ全体としては、リチートラの熱唱あり、ガザーレの名演技あり、とても良い公演だったと思います。5才くらいの可愛い少女を使った演出がなかなか面白い趣向でした。大いに楽しみました。(下は「道化師」のカーテンコール)