中欧オペラ紀行(12) ウィーン ―その4―

金子忠

―ドニゼッティの「愛の妙薬」―

 

典型的なオペラブッファ(喜劇)。オペレッタといってもいいような楽しいオペラだ。

 

昔、NHKが招聘したイタリアオペラ団が何回も来日した事があった。その中の一つを見て私もオペラ好きになったのだが、「愛の妙薬」も当時テレビやラジオで見聞きして好きになった。

 

オペラって楽しいもんだ、と思った最初のオペラがこれである。

右の似顔絵はこのオペラの作曲家ドニゼッティ(案内のパンフレットから)。

 

19世紀イタリアのベルカントオペラの旗手。「ルチア」「ドン・パスクワーレ」「ファヴォリータ」など”多産系”で知られる。生涯に70余のオペラを作曲した。いずれもメロディが美しく親しみ易くて好きな作曲家である。

このオペラの中でドゥルカマーラというインチキ薬売りが歌うバルカローレ「私は金持ちあんたは美人」という愉快な歌があってその軽快なメロディーが忘れられない。NHKのイタリアオペラ以来この歌が大好きになり、なにかというと頭に浮かんでくるようになった。

もう一つは主人公ネモリーノの歌う有名なアリア「人知れぬ涙」がある。この歌も親しみやすいメロディでテノールのアリアの定番になっている。ちょっと弱気の男が冷たくあしらわれている女に寄せる思いが胸に迫ってきて切ない。ふと現実に戻り、我とわが我が身を振り返ってみて人ごととは思われず思わず涙する・・・・・・のである。

今回の配役はネモリーノがミヒャエル・シャーデ、アディーナがタチアーナ・リズニックというよく知らない歌手であったがコミカルな雰囲気がよく出ていて楽しめた。

 

歌詞はわからずとも笑えた。みな芸達者なのである。勿論歌う方はお手の物、存分に楽しめた。
 

左は当日の配役表。歌手は当日になって突然変わることがよくあるのと、もともと我々には歌手の名前がわからない場合が多いので、この配役表は有難い。

ところで、主役ではないがネモリーノの恋敵役で守備隊の軍曹(ベルコーレ)が出てくるが、これを日本人のカイエイジロウという人が歌った。ウィーン国立歌劇場で主役・準主役級で日本人の歌手を見たのは今回が初めてであった。

この役はコミカルな役柄で、「好いた女に嫌われても世の中の半分は女だから一向に困らない」と強がりをいうくらいのおめでたい男。カイさんはちょっとマジメすぎるかな、という感じはあったが歌は周りの一流歌手に伍して遜色なかったと思う。これからも頑張って欲しい。

(帰国後インターネットで検索したところ、甲斐栄次郎さんは二期会所属で2003年から来年7月までウィーン国立歌劇場と専属契約している新進バリトン歌手とのこと。専属だから当然であるが、何回もウィーンの舞台に立っているらしい。すごい!熊本県出身)

 ヨーロッパのオペラハウスでは韓国人、あるいは中国人と思われる歌手の名前はよく見るが残念ながら日本人は少なめである。歌の勉強に行っている日本人は少なくないと思うのだが、このことは何故かよくわからない。日本でも最近はオペラの公演があちこちで行われるようになったから、向こうである程度の実績ができると日本に帰ってきてしまうのだろうか。
 


   

ところで、今回の席はついに”天井桟敷”にきてしまった。6階席! さすがに高い。ビルの屋上から見下ろす感じである。ただし舞台からは正面だったので横の方で見た時のような違和感は少なかった。

6階”天井桟敷の人々”。 ここにいる人々は”通”が多いのではないかと思った。比較的安いチケットで何回も見にくる、ということで。
 

その他”見学”気分の旅行者とか、音楽関係の留学生とかいろいろな人がいるようだった。