中欧オペラ紀行(11)ウィーン ―その3―
 

金子忠次

―プッチーニの「トスカ」―

 

ウィーン国立歌劇場で見たオペラは2つ、1ツが今回のお目当ての「トスカ」、2ツ目がドニゼッティの「愛の妙薬」。

 

まずは「トスカ」から。”お目当て”と書いたのは、今回のツァーで見るオペラに出演する歌手の中で唯一私の頭に名前があった歌手が出るからである。トスカを歌ったソプラノのダニエラ・デッシーである。

ダニエラ・デッシー、イタリア人で今40代後半の脂の乗りきった時を迎えている。この人は現役のソプラノ歌手の中では世界で10本の指に入る名歌手である。(私の指である、念のため)。

 

豊かな肉体と美貌の持ち主・・・毎回同じことばかり言っているようで情けないが、よく考えてみると、向こうの人(女性)は中年になるとみな同じ体型をしているので、わざわざ断わるまでもないようだ。

 

毎日ビフテキを食べているとか、話題にこと欠かないが、あれだけ声を張り上げてオペラを歌いきるためにはあの体力=体型が必要であることは納得できる。体型による声の豊かさ、深みと聴く方の安心感があると思う。

 

逆に私は名歌手でもマリア・カラスはあまり好きでない。細身のからだから声を搾り出すあの歌い方は緊張感にあふれてその点は素晴らしいのだが、聴いていて切なくなってくる。少し無理があるような感じがしてしまう。同時期、カラスと覇を競っていたレナータ・テバルディの方が好きだ。 歌唱上の技術的なことは素人の私に言えるはずはなく、これは好みの問題である。

今回のトスカの相手役カバラドッシは、テノールのファビオ・アルミリアート。全く名前を知らなかったが、なんとデッシーとアルミリアートは夫婦なのだそうだ。旦那の方は残念ながらやや声量と声の輝きにもの足りなさを感じた。どうしてもドミンゴやパヴァロッティと比較してしまうので申し訳ないのだが。

ただこの二人は、我々がウィーンーで見た後の3月にミラノ・スカラ座で同じ役を二人で歌い、さらに今年秋には来日して東京で「トスカ」を共演することになっているから、上記は私の無知による妄言であろう。

 

二人のデュエットCDを買った。左の写真はそのCDのジャケット。なるほど夫婦ですねぇ 仲よさそう!

夫婦でオペラ歌手というのは珍しくはなく、現役では、アンジェラ・ゲオルギューとロベルト・アラーニャのペアが有名である。両方とも世界のトップクラスである。私は生では聴いたことがないが、映像やCDで何回か見聞きしている。そろって名歌手である。二人ともまだ若いのでこれからが楽しみだ。
 

そういえばゲオルギューは細身の方に属するかも知れないが、高音がきれいでしかも美人、好きな歌手の一人である。なお美人美人と書くと顰蹙を買いそうだが、歌舞伎役者が美男子の方がいいのと同じことである。

 

今回ウィーン国立歌劇場では初めてボックス席の上の方(4階)に座った。今まで平土間では全く見えなかったオーケストラがよく見えたのは収穫だったが、舞台ははるか下の方、遠くで芝居をやっている感じでドラマの中に没入とまでいかなかった。チケットの値段の差はこんなところにあるのだと再認識した。

 

 

上の写真は4階席から更に上の方(5階、6階)を見上げたところ。「天井桟敷の人々」という映画があったが・・・・・。

そのかわり、舞台から客席まで全体が見渡せてある種の快感もある。

 

ちょうど向かい側のボックス席に座っている人とは距離はかなり離れているが相対しているので、お互いに見ているようでもあり見ていないようでもあり、視線が合っているようでもあり合っていないようでもあり・・・・・微妙。平土間に座っている時には想像できなかった異次元空間の世界にいるような感じであった。