中欧オペラ紀行(4)

金子忠

―ザルツブルク その2― ―ザルツブルクの町あれこれ―

    

ザルツブルクは”聖地”であるが、人口はたったの13万しかない。ここ久留米の半分以下だ。

この小さな町に劇場やら、宮殿やら、教会、その他歴史的な建造物がいっぱいある。それぞれに立派で壮麗で、町の大きさに対して不釣合いではないかと思うほどである。旧市街を歩いていると、人はどこに住んでいるのかと思ってしまう。

この町はローマ時代からこの地方の交易の中心地として大いに栄えていたとある。近くに岩塩鉱があり、塩の商売で潤ったらしい。そういえばザルツブルクのザルツは塩のことである。ザルツブルクはモーツァルトだけではないことを改めて認識させられた。

   

その町で毎年一大音楽祭が開かれる。ザルツブルク音楽祭である。バイロイトと並んで世界的に知名度が高い。一度は来てみたいがこれも将来の夢である。「これに来ないと死ぬに死ねない」と思っていると実現するかもしれない。

その音楽祭のメイン会場が「ザルツブルク祝祭劇場」である。今回は近くに行ったが夏の音楽祭に向けて外周りを工事中で全体はすっきりとは見えなかった。

普通この類いの劇場は由緒ある、というかそれなりに古めかしく装っているのだが、ここはあまり凝った建物ではない。割合さっぱりした外観である。20世紀になってから作られたというから比較的新しい。それと劇場の一部は山の岸壁をくりぬいて作ってあるそうだ。劇場としては変わっている。ただし音響はいいらしい。

今年の夏の音楽祭はモーツァルトイヤーということで、例年以上に華やかに盛大に開かれることになっている。世界中から訪れる人で、この小さな町は人でごった返すに違いない。

モーツァルト広場というのがあって、そこにモーツァルトの大きな像がたっている。ウィーンの王宮横にもあるが、向こうはやや小柄でそれらしいが、ここのは体格的に立派過ぎる。と思うのは、映画「アマデウス」に毒されているのだろうか。

あの映画の中のモーツァルトは小柄でおっちょこちょいで大作曲家とはとても思えない人物像であった。一度頭に沁みこんだこの種の印象はななかな消えない。

少し離れて、パパゲーノの像があった。「魔笛」に出てくる”鳥刺し”である。こちらは何とも細身でしかもかわいらしい少年である。想像とは全く逆である。オペラでは、この役はよく恰幅のいいバリトン歌手が歌う。しかも女好きだし、いたずら好きだし、そういうイメージがあるので、違和感大であった。モーツァルトと同じである。

建物の片隅でフルートを吹いている人がいた。音楽関係の学生であろうか。いかにも音楽の町という雰囲気だった。ここには、モーツァルテウム音楽院やその管弦楽団がある。

<つづく>