チト、間違って 現世通信

 

神田達男
筆者の名をご覧になって、トートーヤツからの天国通信かと思った方が多いのではないかと推察し、当たらずといえども遠からずであることを文頭に申し上げるのであります。

機会あるごとにあたくしの首から上の部分は(特に、外観は優れて)かつての青年の面影を喪失し、頭部上皮は多くの部分が直接外界に接しており、かつ並外れて内部構造がヤワニなっていることを表明していましたが近年その度合いが増加して、まさに天国そのものなのであります。

例えば、隣の部屋に鋏を取りに行き敷居をまたいでうろうろしていると、何のためにこの場所に居るのか分からなくなって鋏のことなど思い出しもしない、それでいてなんの不自由もないというこの世離れした平和な生活をしているのであります。

1950年前後のことをやっとこ思い出してみると、あたくしの周りには75歳を過ぎた人間などほとんど生き残っていなかった。たまに居ても、ずっと寝たきりか、口うるさく憎まれているか、そんなものだった。

また、現在の場所に住まいして10年間くらいの間は子供の声がうるさいほどで、たまに爺さんなどが出歩くと、これは珍しいと尊敬の眼差しで見られたものでしたが...

ありがたいことにそんな物忘れ天国にいながら、いまだによく覚えていてかつ実行しているアイテムがあるので今日はその秘伝をお伝えします。それは、

――毎夕の2合の晩酌!――

ここで、コマーシャル     

ずっと前のことでした。毎日新聞に酒の正しい(紳士にふさわしく、健康に最適で周りの方々に迷惑にならぬ)飲み方の紹介があった。その真髄は、

『1日に2合。これより多くても少なくても』ダメ。2合を厳守せよ。

というものでありました。ありがたいことではありませんか。それ以来あたくしは頑なにそれを実行し続けています。もちろん、毎日新聞を愛読し続けています。  

あたくしの硬い決心は<よその新聞に3合の記事が出たらそれは別。それまでは毎日新聞を固執!>


本題のホラ話に突入します。

国画会という芸術を愛しているその道の芸達者の会がある。会であるから会員のために運営している。もちろんのこと、あたくしは会員でない、どころか会員になりたくてもしてくれない。

参考までに:

部外者が会員の資格を得るには、年1回の国展という展覧会に5回連続して入選しなくってはならない_あたくしのように、3年に1度くらいの輩はモンダイガイでオハナシニモならない

会員になるとどんな事態が出来するか:

  1. 展覧会に、たぶん無条件で展示される

  2. 部外の応募者の審査に当たれ、優越感に浸れる 

  3. 出展に当たり出展料が部外者の3倍になる

    これを知って、驚いた!! 会員に推薦でもされたら直ぐに断らなくてはならないと固く誓った!!年金生活も長いものでね。

    物事を真に深く考察する習慣を身に着けているあたくしは、部外者の出展料やパンフレットの掲載料、展覧会の入場料などは莫大なものになり、それは会員が山分けするのではないかと勘ぐっていたのだがドーモそうではないらしい...

    ...が詳細は闇の中。闇のおこぼれにあやかりたいものだと思うものの、あたくしの実力ではトテモ。

次に、各位に国展の審査の状況をお知らせしよう。

上の2.のとおり、会員が部外の輩の審査に当たるのですがそれは会員も素人のこと、限界に突き当たって先生に泣きつく。

『センセー、どうしても入選者が1名不足していて、会場の壁の穴ポコが埋まりません』

『お前ら、なんとか考えろ。役目だろう』

『考えましたが、無理です』

『何年も金ばかり払って入選してないヤツはないか?』

『それだったら、いっぱいありすぎます』

『その中で、年も年で多分今年が最後、今後お目にかかりそうもないヤツがあるだロー!』

『センセー、一人ありました』

『誰だ!』

『エー、カとかンとかいう爺さんです』

『絵なんかどうでもいい。それが最後の入選だ!』

こんな具合で、今回は実に久しぶりに必死でつかまっておった蜘蛛の糸がブチ切れることもなんとか避けられ、結果、わが才萩会の各位は安寧な日常を妨げられ騒がされ、なんともいいがたいホラ話を聞かされる仕儀となったのであります。

全く災難はいつ、どこでふりかかるか分からないのですが、上記の内情を知っていただけば今回の災厄の責任はあたくし一人のものではないことがお分かりになって、各位は寛容の心に満たされることでしょう。

これからのあたくしの小さな願い:

なかなか望めないことでしょうが、あたくしの絵を見てくれたどなたかが、極一瞬『あ!』と感じられるようなものを作ることが願いです。

これをもってすれば、門番のパウロがうろたえて天国への道を開いてくれるかも。そしたら、そこから皆さんに通信を差し上げます。それから、寂しくなったらみなさんをお呼びするってのはどうかな?