金井孜夫

 

事象の対応には、「個の視点」と「全体の視点」のバランスが必要だが、昨今は「個の視点」が重視され過ぎているように思う。個(個人)の幸福・欲望を追求あまり、気が付いたら乗っている船(現生人類)が破滅の方向に向かっていないか、危惧するところである。

 

アストロバイオロジー(宇宙生物学)に関心がある。宇宙の視点から現生人類(ホモ・サピエンス)の現状を見ると、生物種として異常である。おごっていないか。自然に対してもっと謙虚であるべきである。以下に、個人的に興味のある事項を記載する。

宇宙・地球・生命・人類の進化

まず、進化の全体像を俯瞰するのに都合のよい図を転載する。資料は1995年版なので、それぞれの年代・年数は精度高く改訂されている(例/宇宙の誕生:135億年前→137億年前)。

当該学問にも進化がある。本稿では「人類の進化」について述べる。

霊長類の進化

進化の系統樹において、人類は、これまでは他の霊長類とは一線を画くし特別な地位を得ていると思われていたが、最新のDNA分析からチンパンジーやゴリラと極めて近縁であること、即ち、人類は万物の長ではなく、生物進化の単なる一コマに過ぎないことが明らかになってきた。

人類の進化(昨今の学説で、流動的)

人類は、700万年前、アフリカでチンパンジーとの共通祖先から分岐した。まず、直立2足歩行をするようになった「猿人」(アウストラロピテクス属など)が登場し、絶滅した。

次に、石器を使う「原人」(ホモ・エレクトス属など)が現れ、180万年前にアフリカを出て中国やインドネシアまで広がったが、絶滅した。一部は欧州に進出し、20万年前に「旧人」のネアンデルタール人に進化した。ネアンデルタール人は、がっしりとした体格で毛皮をまとっていたとされ、西アジアまで広がったが、3万年前頃に絶滅した。

一方、アフリカに残ったグループの中から20万年前頃に「現生人類」(ホモ・サピエンス)が出現し、6万〜5万年前にアフリカを出て、世界の隅々にまで拡散した。まだ絶滅していない。拡散の速さは地球時間に比べ格段に速く、例えば、地続きだったベーリング海峡を渡ってから南米の先端パタゴニアに到達するまで、わずか1,000年である。他の生物や環境に少なからぬ影響を与えている。


ホモ・サピエンスの拡散ルート

人類の系統図

次の図は、人類各種の、発生から絶滅までの期間を示す。それぞれの種は、概略100万年以内で絶滅している。我々ホモ・サピエンス(現生人類)は発生してから約20万年が経過した。生物である以上、いずれ絶滅し、これに代わってより進化した新種が現れることは否定出来ない。いつになるか?今から80100万年以内か?


人類の系統図

ホモ・サピエンスの数(人口)

200年前の1814年には10億人だった人口が、1927年には20億人となり、その後わずか82年経った2009年には48億人が上積みされて、68億人になっている。特に昨今は、50年毎に2倍、と幾何級数的に増加している。この増加は異常で、生物として不自然と思う。ホモ・サピエンスが順調に増加していることを、単純に喜んでいてよいのであろうか?


世界人口の推移

人口問題

増え続ける人口に対峙しては、次の2つの見解がある。

  1. 放任しておけばよい。

    理由は、人口増加を行き詰まる所まで行かせその時点で強い者だけが生き残ることで種(ホモ・サピエンス)の進化が進展する、あるいは、人口の人為的な調節は神のボウトクであるなど。

  2. 英知をもって、適正な人口水準を達成する。

    筆者は、(1)の見解には組しない。我々が今直面している多くの問題(貧困、食料不足、エネルギー問題、環境破壊など)の根幹には、ここ80年余で20億人が70億人へと急増したホモ・サピエンスの数があると認識するからである。放任の結果の人口爆発で生ずる強者・弱者の生存闘争は避けたい。(2)を支持する。

日本の人口

日本の現状と将来を俯瞰する。

日本人の平均寿命(有馬朗人調べ)は、次のようになっている。

縄文(1.5万〜0.3万年前):31才→ 弥生:30才→ 古墳:31才→ 室町:33才→江戸:45才→ 明治:43才→ 大正:45才→ 昭和10年:男47才・女52才→ 昭和22年:男50才・女54才→ 平成10年:男77才・女84才→ 平成22年:男79.59才・女86.44

一方、人口構成図(国立社会保障・人口問題研究所提示)は、国策の“生めよ増やせよ”の転換と、家族計画に関する教育および正しい避妊法の普及により、次のように、「富士山型」→「壺型」→「逆台形型」と変化して来ている。出生数は、200万人(1930年)→ 100万人(2010年)→ 45万人(2055年)と減少の方向である。

出生数の減少と、医療の進歩による寿命の延伸で、将来、人口構成図は細長い「ビル型」となろう。すなわち、生まれた子供は全員100歳近くまでの天寿を全うする社会となる。100年待てば世代は完全に交代する。2055年から100年後の2155年には、日本の人口は45千万人となろう。ちなみに、これは、江戸時代後期:3千万人、明治22年(1889):4千万人、大正元年(1912):5千万人の水準である。

 
日本・
1930


日本・
2010

 
日本・2055

日本・未来(筆者の予測)

世界的な人口対策

そもそも、人口問題は、200年以上も前に提起されたT..マルサスの『人口の原理』に端を発する。その後、1972年のローマクラブ編『成長の限界』の警告を経て、1987年の国際連合人口基金(UNFPA)の設立、1994年の国際人口開発会議でのカイロ行動計画書の採択と、もはや放任論は払拭され、人口調節は世界的な運動になっている。

行動の基本は、家族計画に関する教育、正しい避妊法の普及、女性を子供を生む道具から解放する女性人権保護などである。これに医療の進歩が加わって、「多産多死」が「少産少死」に変化しつつある。

  1. 出生数が減り始めている国・地域

    ヨーロッパ、アメリカ、ロシア、日本、インド(下図左)、中国(下図右)

 

  1. いまだ人口が増え続けている国・地域

    アフリカ(ニジェール、アンゴラ、エチオピアなど)、東南アジア(ラオス、カンボジア、パキスタン、バングラディッシュなど)、ラテンアメリカ

Aの国・地域は、あと100年待てば世代が交代するので、人口は減る。

問題は、Bの、いわゆる開発途上国である。ただし、現時点ですでに、Aの国・地域で実施されたカイロ行動計画(家族計画に関する教育、正しい避妊法の普及、女性人権保護など)が地道に実施されているので、Aの国・地域との遅れを考慮すると、Bの国・地域もあと200500年程待てば、人口は減り始めるだろう。

アストバイオロジストの松井孝典によると、人間1人当たりの食料(米国並み)は穀物換算で約1トン/年、地球上の穀物生産量は環境との共存を前提とすると約20億トン/年なので、世界人口は20億人程度が適正とのこと。話半分としても、現在の70億人は多過ぎる。半減にはしたい。

ホモ・サピエンスの未来

ホモ・サピエンス(現生人類)の進化を“巨視的に”見ると、筆者には、その拡散と数は生物種として異常であると映る。地球上の生物として、急速に、かつ数的に増え過ぎたホモ・サピエンスは、今後地球環境と共存できる数まで調整されるべきである。筆者の主張は、「少なく生む→生まれたら健康に育てる→全員が幸せに長寿を全うする→世代交代する100年間待つ」である。

幸い、先進国では出生数が減り始めた。開発途上国でも、国連等の地道な活動が浸透し出している。数100年単位で見ると、人口が減少する方向は確実である。筆者は、ホモ・サピエンスがその英知を正しく駆使する限り、未来は明るいと信じたい。ただし、条件がある。世の価値観を、人口増を前提にした大量生産・大量消費から、低人口下での低い消費・生産活動でも皆が幸せに暮らせる方向に転換し、そしてその準備を賢明になすべきである。

以上、人類の進化を踏まえ、未来を眺望した。増え過ぎたホモ・サピエンスは、自らの数を律し、自然に対し謙虚に振舞うべきである。世界人口の構成を「富士山型」から「ビル型」へ、具体的には「多産多死」を「少産少死」に進化させることである。

以上