金井孜夫

 

人生において“生老病死”は避けられない与件である。であるならば、これを受け入れて上手に生きていきたい。しかし、難しい。

最近、友人から、“老い”について詠まれた狂歌、戯れ歌を教えてもらった。

「林住期」の中にあって、まだまだ若い者には負けないと気持ちは気張っていても、現実には介護保険手帳の送付があり、時々電車で席を譲ずられるようになった身にとっては一々納得出来るものであった。

老いる前に老いを考え、そして老いつつ老いを考えるのも悪くないと思い、諸兄姉にもご紹介する次第です。

一つは、江戸の「老いの狂歌」とも言われるもので、尾張藩士横井也有が、老人の自戒のために詠んだもの。

横井也有は、赤穂浪士討入の年の元禄15年に生まれ天明3年(1783)に没した尾張藩士で1,300石取の寺社奉行の重臣である。正式名は孫右衛門平朝臣時般(トキツラ)といい、祖先は鎌倉執権14代北条高時の次男に発する。

53歳で隠居し也有と号し、俳諧、俳文、戯曲、書画、狂歌に優れ、別に、野有、暮庵、知雨亭などの号も用いている。俳文集「鶉衣(ウズラゴロモ)」が有名である。以下、彼の狂歌。

 

  • 皺はよる ほくろは出来る 背はかがむ 頭は禿げる 毛は白くなる

  • 手は震え 足はひょろつく 歯はぬける 耳は聞えず 目はうとくなる

  • よだたらす 目汁をたらす 鼻たらす とりはずしては 小便ももる

  • 又しても 同じ話に 孫ほめる 達者自慢に 人をあなどる

  • くどふなる 気短になる 愚痴になる 思いつくこと みな古くなる

  • 身にあふは 頭巾、襟巻、眼鏡、たんぽ、温石、しゅびん(尿瓶)、孫の手

  • 聞きたがる 死にともながる 淋しがる 出しゃばりたがる 世話やきたがる

  • 宵寝、朝寝、昼寝、物ぐさ、物忘れ、それこそよけれ 世にたたぬ身は

次は、大阪商人天井新一郎の戯れ歌「ぼけたらあかん長生きしなはれ」。94歳の人生の達人の言には重みがある。いずれやって来る「遊行期」の心得として、ご一読あれ。

「ぼけたらあかん長生きしなはれ」

  1. 年をとったら出しゃばらず 憎まれ口に泣きごとに
    人のかげ口 愚痴いわず 他人のことは褒めなはれ
    聞きかれりゃ教えてあげてでも 知ってることも知らんふり
    いつでもアホでいるこっちゃ

  2. 勝ったらあかん負けなはれ いずれお世話になる身なら
    若いもんには花持たせ 一歩さがってゆずるのが
    円満にいくコツですわ いつも感謝を忘れずに
    どんな時でもヘエおおきに

  3. お金の欲は捨てなはれ なんぼゼニカネあっても
    死んだら持って行けまへん あの人はええ人やった
    そないに人から云われるよう 生きているうちにバラまいて
    山ほど徳を積みなはれ

  4. そやけどそれは表向き ほんまはゼニを離さずに
    死ぬまでしっかり持ってなはれ 人にケチやと云われても
    お金があるから大事にし みんなべんちゃらいうてくれる
    内緒やげれどほんまだっせ

  5. 昔の事はみな忘れ 自慢話はしなさんな
    わしらの時代はもう過ぎた
    なんぼ頑張り力んでも 体がいうことききまへん
    あんたはえらい わしゃあかん そんな気持でおりなはれ

  6. わが子に孫に世間さま どなたからでも慕われる
    ええ年寄りになりなはれ ボケたらあかんそのために
    頭の洗濯生きがいに 何か一つの趣味持って
    せいぜい長生きしなはれや

以上2種の狂歌 戯れ歌、いかがでしたか? 真実であるが故に、可笑しくも悲しい。