8,000万人は過剰人口?

遠藤興輝

たまたま読んだ小冊子に面白いスピーチが出ていた。そのスピーチの印象に残った部分を保存しておきたい、人にも紹介したいと思い、このページにした。ただし、原文を、小生なりの解釈でに可成り弄ってある。原作者の真意を逸脱するものでないことを祈るばかりである。

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20世紀、人間の効率は半分以下に落ちた...先進国消費レベルで世界人口を養う余裕はない。

20世紀の百年で世界人口は15億人から60億人と4倍、経済成長は17倍、食料生産や都市・産業のための水需要量は10倍、エネルギー使用量も10倍になった。経済成長のための一人当たりの資源消費は、2倍を超え3倍に達しようとしてる。換言すれば、、生物としての人間の効率は半分以下に落ちた。

 

この水の惑星(地球)は、22世紀初頭には100億人程の飽和人口に到達すると予測される。現在のような化石エネルギーと大量の水の消費を続けながら、先進国が到達した消費レベルですべてを養う余裕はない。

 

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グリーン文明の限界(江戸末期の大飢饉)と近代化

 

徳川時代の250年あまり、日本は鎖国をして、三つの島をとことんまで開発し、成熟した日本型文明を作り出した。道路網も発達し、手形の決済システムも考え出され、大量のお伊勢参りの人々が現金を持たずに旅ができた。しかし、太陽エネルギーベースの米(こめ)社会(今でいうグリーン文明)は、人口が3,000万に至る前に飽和に達し、幕末には疫病や飢饉などで100万をはるかに超える人を失い、グリーン文明システムとしての限界に至った。

 

西欧列強を手本にして、日本の近代化が進み、1930年代に日本本土の人口は7,000万人近くに達し、四つの島ではこれを支えきれず、ついには軍事力を伴う大陸への膨張・侵略、東南アジアへの侵攻に至った。敗戦により、また本土四島に閉じこもることとなった日本人は、その勤勉と高い教育水準で奇跡の復興と経済大発展を遂げGNP世界第二位の経済大国となった。人口も21世紀の始め1億2,500万人となり、人口推計曲線の最大値を示し、以後は急速に減少するとされる。21世紀末にはまた、1930年代初期と同じ7,000万人弱に戻ると予想される。

 

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国土の固有の能力...8,000万人は過剰人口

 

7,000万人を食わせることが出来ず、長い戦争に突入した歴史の原因は、今もある。この四島の自然でグリーンに自活できる人口は、徳川250年余の歴史的な大実験結果に、北海道を加え、科学の進歩を加味しても、我が国土上では4,000万人位が限度ではないか。つまり、日本人の内8,000万人が過剰人口とも言える。

 

この過剰人口は、国民の知恵の産物を世界に輸出した稼ぎで、他国から食料・エネルギーや様々な資源を買い、廃棄物を国土にため込んで生きているのではないか。にも拘わらず、我が国は突出した高い個人所得(消費水準)と安定な社会を第二次大戦後の50年足らずの短期間に作り上げてきた。20世紀の奇跡である。それをこの国土の固有の能力と安易に考えてはいないか。

 

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これからの日本

 

時代の先を読む賢い目とたゆまぬ努力があれば、世界最大の太平洋沿岸メガロポリスの活力と日本の伝統をうまく繋いだ、新しい次の時代の日本を創ることができる。

 

百年仕事であり、賢く使えば人口の減少が日本の積年の無理を和らげてくれるにちがいない。安定した社会と尊敬されうる住民を持つ国は、無理押しの大国ではない。近代型の成長を是とする大国に挟まれて生き続けることは、明治維新よりはるかに難しい。だが、なんとしても努力し続けねばならない。

 

近代を追った日本は、ヨーロッパ近代の精神と科学を学校教育で学んできた。これから日本に求められることは、世界に先駆けて西欧型近代をどのようにして卒業するかということである。

注:原文は、放送大学学長丹保憲仁氏の平成14年度放送大学卒業式での告辞の一部である。スピーチであり、原文はもっと穏やかな口調で語られているものだが、筆者が、大幅に縮小すると共に、表現も断定的なものにしてある。