溶融亜鉛めっき鋼板の技術

                                安谷屋武志

アグネ社の学術誌『金属』からの依頼により、筆者がこれまで40有余年間携わってきた「溶融亜鉛めっき鋼板の技術」について、総説の連載を始めたので、ここに紹介します。

連載は8回の続きですが、以下は、第1回の書き出し部分です(Vol.78(2008),No.8,p.79-80)。

はじめに

まず,図1をご覧頂きたい.これはここ50年来の我が国鉄鋼製品(圧延鋼材)の品種別生産量推移を示したものである.1960年代から1970年代半ばにかけて高度成長時代の波にも乗り,トータル生産量の飛躍的延びが顕著である.そしてそのピークは1973年の約9100万トン(粗鋼で12億トン)である.

品種別に図をもう少し詳しく見ると,1980年代初期までは製品の主役は厚中板,棒鋼,型鋼などいかにも鉄らしい製品であったが,その後,熱延板・冷延板・亜鉛めっきという薄物に置き換わっており,なかでも亜鉛めっき鋼板の伸びが著しく,ここ数年ついにトップの座(17%)に着いた.

最近,鉄鋼関係で新聞等の経済欄を賑わしているのも溶融亜鉛めっきの設備新設や増産の話ばかりである.

何故であろうか.第一の理由は既に最大の量産品種でありながらまだ需要が増えている製品であること,第二に製品の大半が製品付加価値の高い自動車用鋼板であることである(図2).

あとで詳述するが,自動車用防錆鋼板に亜鉛めっき鋼板が最主力材として使われたことがこの亜鉛めっきの繁栄をもたらしている最大の理由といえる.

一昔前の筆者が入社した頃には,鉄鋼会社で造る代表的表面処理鋼板の亜鉛めっき鋼板および錫めっき鋼板はトタンおよびブリキと呼ばれて,両者はよく混同されて使われていたものである.

主用途も屋根茸きや壁・内装などの建材で,品質的にもあまりうるさいものでは無かった.それが自動車ボディー鋼板として使用されるとなると,防錆性の付与のみならず,鋼板に求められる高度な機能(強度やプレス加工性)も持ち合わせなければならない.

何故亜鉛なのか?よく言われることは,鉄に対する犠牲防食性と腐食生成物のバリアー性(絶縁性)である.筆者は,幅広い環境での安定した犠牲防食性の維持にあると思う.

アルミニウムなど多くの金属では環境により容易に鉄より貴になり犠牲防食性が無くなる.犠牲防食性を維持しながら,金属亜鉛が消耗し尽されても腐食生成物が防食性を示すということは興味深い.これについては,いま研究されている所である.

次の利点は亜鉛の融点が低く,溶融めっきが容易であること.更に比較的安価な金属であること.また,表面の安定した美観とその上の塗装性も良いし,加工性,溶接性も優れることなどから鉄の防食材として工業的に最も多用されていると思われる.

鉄鋼産業の中で亜鉛めっきが重要視されている証しにGalvatechという国際会議の継続がある.これは自動車防錆鋼板として亜鉛めっきが主力製品になり始めた1989年に日本で開催したもので,その後3年毎に欧州,米国また日本と引き継がれ昨年(2007年)第7回大会が大阪大学で盛大に開催された.

一つの製品に特化してこれだけ大掛かりな国際会議が約20年間も衰退することなく続けられるということは珍しいことと思われる.

筆者は昭和38年(1963年)鉄鋼会社入社以来40年以上に捗り,比較的初期の近代溶融亜鉛めっきライン立ち上げから各種のプロセス開発,新製品開発に携わるという幸運にめぐり合うことが出来た.

今回,溶融亜鉛めっき技術全般について,製造法や製品の一般品質特性などだけに留まらず,その発展の歴史,亜鉛一鉄反応の冶金学的側面,最近改めて研究され注目されている腐食メカニズム,環境と資源問題まで,出来るだけ広くかつ平易に,8回くらいに分けて述べることとした.掲載予定は次の通りである.

  1. はじめに(第1回)

  2. 溶融亜鉛めっきの歴史(第1回)

  3. 溶融亜鉛めっき鋼板の製造プロセス(第2回)

  4. 溶融亜鉛めっきのメタラジー(第3回)

  5. 溶融亜鉛めっき鋼板の諸特性(第4回)

  6. 亜鉛めっき鋼板の耐食性(第5回)

  7. 各種Zn-Al系合金めっき鋼板(第6回)

  8. 化成処理技術(第7回)

  9. 亜鉛資源の枯渇と代替技術(第8回)

  10. おわりに(第8回)

 

各論の詳細についてご関心のある方は、安谷屋に直接論文請求して頂くか、アグネ社の学術誌『金属』をご覧下さい。

 

 

謝辞:以上の記事の掲載にあたって、当HP幹事の遠藤君、金井君に本文作成を初め多くの労をとって頂いたことに感謝いたします。