最新韓国事情

安谷屋武志

小生、昨年は中国づいていたが、今年は韓国への出張するチャンスが増えている。そこで昨今見聞きした最新の韓国事情を私の視点で述べてみたい。

アクセス:成田⇔仁川(インチョン)がメインルートだが、羽田⇔金浦の便があるので、これがすごく便利。特に東京、横浜の人にとっては大変な時短になる。

1日たった4便(JAL,ANA,KAL,AARの各1便)しかないのでカウンター、待合室などすべて小さく、静かで落ち着いている。

それから、金浦空港に着いてから国内線への乗換えが極めて楽。航空運賃が少々割高と云われるが、これは絶対お勧め。

国内各地への移動は、近場は車、300km程度以上は飛行機が一般的。鉄道網はフランスより導入した時速300kmhrを誇るKTXもあるが、一般的に余り便利でない。その分小さな地方都市でもソウルと結ぶ小さな空港を持っている。


ソウル中心部、ロッテホテルの窓より(1)

携帯電話と同様、鉄道網という巨大なインフラが要らないので合理的といえば合理的。

空からの景色:緑豊かで田畑が細かく仕切られている点、集落の構えなどは日本とよく似ている。

大きく違う点はゴルフ場が全く見当たらない点。日本では空から見るとゴルフ場だらけ。

もう一つは住宅が高層化しており、日本のように平地に小さな戸建て住宅がビッシリ並んでいるという景色はない。高層は高層でも2030階建てというかなり高いものが普通で、一箇所に10とか20棟以上集合している。

鉛筆のような細くて高いビルばかりで、大きな地震が来ればひとたまりもないのではと思う。

道路網、地下鉄網:道路のインフラはしっかりしている。

主要高速道路は片側4〜5車線と日本ではなかなかお目に掛かれない広さ。特に漢江両岸の高速道路の走行は快適で、車窓からの眺めは近代韓国を思い切り見せてくれる。

乗せてもらった車も日本のセルシオのような高級車(ヒュンダイ製3.5L、車名忘れた)だったので一段と印象も強い。

市街地までは30分程で来るが、そこから都心までが問題。まともに行けば10分程度と思われるが、混みだすと1時間以上もかかるという。


ソウル中心部、ロッテホテルの窓より(2)

そのまま車で行くか、地下鉄に乗り換えるか速やかな判断が要求される。我々は、第一回目は地下鉄を選んだ。

地下鉄は9路線が網の目の如く張り巡らされており、東京並みに発達している。乗ってまず驚いたことは、シートが金属製(多分ステンレス)。

聞くところによると、数年前に起こした火災事故がきっかけで、全部不燃化させたという。座り心地は極めてよくない。やることが極端だと感じた。

次のチャンスには時刻が多少早かったので、そのまま車で通し、10分位で都心のホテルまで到着。

:どのような車が走っているのか、仕事柄どこに行っても一番気になることである。

云われていたことではあるが、日本車が殆ど見当たらない。これだけ徹底しているかと改めてびっくりした。

かつては日本もそうであったが、国策で車の輸入を厳しく規制している。300400%の関税を掛けているという。従って、日本の一般サラリーマンが購入する200万円くらいのものが輸入車だと8001000万円になる。これでは買う人がいないのも無理はない。但し、レクサスクラスの日本車は少数走っている。これは2000万円くらいだというが、お金にいとめを付けない富裕層が居るためだ。

ソウルでは走っている車の約8割は現代(ヒュンダイ)製。元々5割以上のシェアーを持っていたヒュンダイが2位の起亜を吸収合併したので圧倒的シェアーになるのは当然。日本で言えばトヨタ、日産、ホンダを併せたよりも大きなシェアー。ソウルの主要道路を走っていて、一番目に付いた車はヒュンダイ製ソナタ(15002000cc?)である。韓国はソナタという響きが好きなようだ。

タクシーは独特で、一般タクシーと模範タクシーなるものがある。模範タクシーは日本でいうハイヤーに相当するものと考えてよい。運賃もほぼ倍。一般旅行者はこれに乗るよう勧められている。

昔からだと思うが、待っていてもドアーは自然には開かず、自分で開け閉めしなければならない。

ホテル、レストラン:資源の無駄を省くため、ソウルのロッテなど高級ホテルでも歯ブラシ・歯磨き粉を置いていない。有料で求めるようになっている。合理的であるが、この徹底振りには些か驚いた。逆に地方の2流のホテルではチェックイン時に直接手渡された。地方は遅れているというのか。

日本の居酒屋、いわゆる酒飲みだけの店はなく、ファミリーレストランが一緒になっている。従って、広い部屋で家族連れと飲み仲間が隣り合わせて飲食している。

今に始まったことではないが、一番つらかったのは板の間に竹製の座布団を敷き、そこに座らせられたこと。これで2時間も3時間もやられたのでは本当につらい。これは、冬が寒い韓国の伝統的暖房のオンドルを床に張り巡らすためという。ソウルも地方も全く同じ構造。勿論、和食レストランやクラブ・バーはこちらと同じスタイル。

滞在中は出来るだけ韓国料理を食するようにしているが、中には辛くて我慢ならないもの、硬すぎて手に負えないのもあった。一般的に素材からしてヘルシーだと感じた。

ビジネススタイル:大企業、中小企業、ベンチャーで生き方が異なるようだが、概して自己中心的といわれる。

先ず、サムスン、ヒュンダイ、POSCOなど国を代表する企業はすごいエリート集団で、年俸も他企業に比べて格段に高いが、上下の差が更に大きく、1万倍の給料を払っても優秀な一人を採用する姿勢だと聞く。若いうちに選別されてしまうので、40歳くらいでは本当のエリートか全く逆しか残らないらしい。

出て行く方は自分の能力を高く買う先を探して転々とするか、ベンチャーを起こす。従ってベンチャーの数は無限に近いほど多いが、2,3年以内に90%以上は消滅するという。

上記のような大企業はコスト低減を徹底しており、開発研究の殆どは下請け(傘下企業)に出して、ケツを叩くのが彼らの仕事だという。

今のところ自分達でアイディアから育てようというより、よそ(海外)の新規開発品または最新情報をいち早く入手し、下請けに徹底的に調査およびそのコピー作りをやらせるというのが基本姿勢のようだ。


晋州市ツーリストホテルの前を流れる川

下請けはそれを享受することで親会社の庇護を受けるというファミリー構造を構成している。従って、他社から優れた新開発品を持ち込んでも、通常それを彼らがそのまま採用する気はなく、下請けがこれと同じものを作るまでの間購入するだけらしい。せいぜい1〜2年位か。

従って、供給側としてはその間に次の新製品を出し、常に先を走っていなければ買って貰えないことになる。私は現在、上述企業の一つPOSCO(韓国の国策鉄鋼会社で新日鉄、JFEと同規模)に通っているが、まさにそのような立場にある。

POSCOが出たついでに、私が出入りしている所は光陽(カンヤン)製鉄所といい、ソウルから飛行機で約1時間弱南下したところ。単一製鉄所としては世界最大規模を誇り、市人口の8割くらいをPOSCOファミリーで占めるという代表的な企業城下町を形成している。製鉄所構内には公園やサッカースタジアムなどがあるという広大なもの。

事務所への立ち入りは厳しく、研究所の場合、同行者が数えたのでは会議室に入るまでに5回関門を通っていたという。

仕事の進め方は自己中心的で、我々呼ばれて日本から行っているのも拘わらず、彼らの都合で会議時間を半分に短縮させられた。聞くところによると、彼らは今を一番大切に考えて行動するとか。前に約束したものより大切なものが入った場合、平気でキャンセルするという。相手の今はどうしてくれるのか。頂点企業の我がままかも知れないが。

生活スタイル:日本でも最近、ウォーキング、ジョギング、ハイキングなどがはやっているが、韓国のほうがより普及しているという。我々が光陽の近くの町、晋州(シンジュ)で宿泊時、夜9時頃夕食を終えて宿に向かう途中写真3の川沿いの道を多くの人が、しかも夫婦でジョギングやウォーキングしている姿を認めた。

ソウル市でも土、日は多くの人が家族連れで近くの山に出掛けるという。ゴルフ場は殆ど無いし、高いのでごく一部の富裕層のみのレクレーション。スキーも極めて高価な遊びで、庶民の手に届くものではないらしい。

このようにみると、食生活も含めた韓国の方々の生活スタイルは、日本より健康的であるといえる。

非常に厳しいと思ったのは、車優先の社会。横断歩道があっても、信号が青でも、車優先なので、歩行者は車が来ないことを十分確認して渡らなければならない。はじめは道を横断するのに常に身の危険を感じたものである。特に夜、一人、二人で渡るのは相当なる注意を要する。

おわりに:地理的にも歴史的にも日本に最も近い国だけに、街の景色や生活スタイルなど多くの点で親近感を覚えるが、ビジネス面をはじめ、ものの考え方では大きな開きを感じた。時としてこれが文化、政治面での日韓の対立に広がっているのかも知れない。